山下王座の就位式から

 山下敬吾棋聖が防衛に成功した第55期王座就位式が春まだ浅い如月の12日に開かれました。会場となった東京・日比谷の帝国ホテル4階桜の間にはざっと200人の祝い客が集まり、中締めなしの3時間近くにわたって敬吾王座の健闘を称え、美酒と棋士との交流を堪能。主催者の日本経済新聞で観戦記者を務める木村記者が千寿先生と懇意なこともあり、元文壇名人2期のちかちゃんをはじめ千寿会メンバー5人も見学する機会を得たので、ここでご報告いたします。

 初めに挨拶に経たれた日経新聞の杉田社長、日本棋院の岡部理事長らは、国際頭脳オリンピックの競技に碁が加わったことを踏まえて、7つのタイトル戦に率先して持ち時間3時間制を導入し、現王座と挑戦者が1勝1敗で迎えた第3局と4局を中1日置いて熱海の同じホテルで開催するなどの新機軸が成功したと報告、それに応えて山下王座は「国際戦でも結果を残す」と決意表明されました。

 とりわけ目を引いたのは、タイトル戦敗者の今村九段がわざわざ上京されて祝辞を述べたこと。関西棋院の常務理事として塩川理事長に代わって参加した意味合いもあったかも知れませんが、「タイトル戦敗者が勝者を祝福する習慣を新王座は継承して欲しい」との言葉はカッコイイ。山下王座は「先輩に倣います」と神妙に約束されていました。仕掛け人となった木村記者も「敗者に来ていただいたのはちょっと自慢したい」と鼻高々でした。

 今村九段の介添え役(?)として一緒に上京された関西棋院の結城九段と寿司をもらう場で遭遇したのを機会に「先生も東京で就位式の主役になってください」とお願いすると、「敗者になっても挨拶に立ちたい」と変化球の回答。「今でも依田先生の家に泊まられるのですか」と聞けば、「東京に来る機会は多いので、九段に寝場所を持っている」とのこと。「日本棋院と関西棋院はそろそろ合併するべきですね」と突っ込むと、「ボクもそう思います」とまじめに答えてくれました。ついでに今年の阪神タイガースの話題などもぶつけかったのですが、人気者の結城九段を独占するのはこの辺で慎み深く控えました。

 会場内には石田24世名誉本因坊、工藤元王座、武宮元名人・本因坊と陽光五段、大矢九段、藤沢八段、千寿会講師を務める水間七段、信田六段、女流の小川六段、退役された白江八段、さらに山下王座の愛妻聖子さんと愛息、緑星学園を主宰される王座の恩師・菊池康郎さんをはじめ、緑星学園で切磋琢磨した女流タイトルの常連、青木八段、大橋四段らも見えました。

 定員320名という日本最大の囲碁まつり「リュウ石会」を主宰されるアマ棋客、三留喜代司さんには4月13日に開かれる第33回春季囲碁大会のお誘いをいただきました。石田名誉本因坊、小川六段、梅沢女流棋聖、万波カナ・ナオ姉妹、最も有名な女流インストラクター稲葉禄子さんらが来賓に名を連ねる超豪華な集い。会費は昼食付で5000円。公開早碁対局、指導碁なども用意されているそうです。申し込み締め切りは3月10日、申し込み・問い合わせは〒123-0852 東京都足立区関原2−39−12 TEL/FAX03-3880-3305 三留様宛にどうぞ。

 ところで、高梨八段の顔が見えなかったのはどうしたことでしょう。1月5日の「打ち染め式」の時には「ボクも行く」と約束されたのですが。愛妹の聖子さん、そして義弟の敬吾王座とまさか冷え切った仲になっているのではないかと心配になりますが、人が集まる晴れやかな場がやや苦手な貴公子のこと、自分が就位式の主役となるべく、きっと秀策の碁でも1人並べておられていたのでしょう。

 式がお開きになると、我々5人はクロークで大橋四段とバッタリ。傍らには若き日の小森のオバチャマのような麗人。思わず「よろしければ30分ほど軽く一杯いかが」と持ちかけると、困ったような表情。かささぎさんだったか(あるいは私だったか)「プロ棋士たるもの、アマチュアとの交流も大切にしていただきたい」と一押しすると「では少しだけ」とにっこり。近くの日比谷バーで1時間半ほど歓談の時を持つことができました。

 私は麗人に早速切り込みました。「あなたは大橋先生のお弟子さんですか?」——。すると「私は先生です!」とキッパリ。お名前を伺うと結城さん。何と緑星学園を主宰する菊池師匠の(知る人ぞ知る)最愛のパートナーでした。大橋四段は学園での修行の話をしながら結城さんを実の母親のように慕っているし、結城さんも愛弟子を可愛がっている様子がありあり。今では全国各地に学園活動が広がり、第二、第三の山下棋聖・王座を夢見て子供たちが勉強されているようです。

 以上が、私が見聞きした就位式当日の模様ですが、翌13日に関連したサプライズがあったのでもうしばらくお付き合いください。私の大ボス(彼も就位式に参加していた)が都内某所で主催する飲み食い付きの定例碁会が翌日開かれ、その場に菊池師匠と就位式で来賓挨拶された琉球緑星学園総元締めの顔があったのです。はて、今日は何日だったかと錯乱の極に達した私が、昨夜大橋プロと結城さんを交えて飲んだこと、帰りの電車で結城さんと握手して「泡盛生チョコ」をゲットしたことを打ち明けると、何とチョコの供給元は元締めだったらしい。

 そんなご縁で、元締めに教えていただく光栄に浴しました。実はこの元締め、就位式の来賓挨拶で「王座戦の賞金額をアップして欲しい」と迫り、主催者の日経新聞杉田社長が申し訳なさそうに深く頭を下げるという一幕がありました。私は公の場で歯に衣を着せずに言いにくいことをキッパリと言う快男児が大好き。もちろん、元締めの実力は私よりはるかに上。しかし間断なく注がれる水割りのせいか、大きなコウ代わりの末に黒番の私が何と盤上9目余してしまったのです。しかも菊池師匠の眼前で。「なかなか強いね、ただしもう少し布石の勉強をするといいよ」と元締めが私に声をかけてくれました。私はつくづく、千寿会に感謝しました。千寿先生、そして千寿会講師の先生方、ついでに日ごろの碁仇のみなさん、そしてここを尋ねていただく変人諸兄に厚かましくもお願い。一緒に喜んでくださ〜い!

亜Q

(2008.2.16)


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