されど『週刊碁』

愛読する『週刊碁』が3月になって2週連続で届かないことがあった。販売担当者に連絡を入れると、「2月一杯で契約が切れたので、振り込み用紙を同封して更新の諾否を尋ねる書状を郵送したが、返事がなかったのでストップした」とのこと。

おやおや、何とあっさりしていること。最近また増えたように思う不要な郵送物に紛れ込んだか、家人は見ても私に伝え忘れたのかもしれないが、1度案内を郵送して反応がなければそれっきりとは冷たい。すねて嫌いな振りしたら異性の友人(恋人未満)にさっさと逃げられた若い頃の自分を思い出すではないか。こうなりゃ意地だ。「たかが『週刊碁』。インターネットでおよその情報は入るし、この際購読をやめるか」とも一瞬考えたが、長年の購読習慣をやめるのはさびしい。すぐに継続をお願いした。

それにしても、長期継続購読者が突然中止するのはそれほど多くはないだろう。うっかり手続きを忘れたり、些細な行き違いだったりするかもしれない。こんな時、普通は何度か確認の連絡が入り、もし中止の意思を聞いてもしつこく翻意を促そうとすることが多い。定期発行の雑誌は、新規講読を獲得するより購読中止を減らす方がずっと効率がいいと言われる。この際、日本棋院は契約更新手続きを見直されてはいかがだろう。それと、日本棋院会員に対してはなぜか郵送方式を採られているようだが、これだと新聞販売店からの配達より1日半は遅れる。できれば会員に対するこうした逆差別もなくして欲しい。

おこがましいことを並べ立てたついでに、編集改革についても私論をぶち上げよう——と一瞬思ったが、何しろ私は、大局に眼を着けずに小局ばかり着手するタイプ。恥ずかしながら、いつも編集部のご苦心の跡が偲ばれる「見出し」についてのみ書かせていただきます。

まずは本年1〜3月の本紙の見出し(表と裏のページのみ、メインタイトル〜サブタイトルの順)。

1月2、9日合併号
表;晴れて臨天元〜初挑戦・初タイトル
裏;大棋士加藤〜故人の遺徳しのぶ400人が参列

1月16日号
表;チクリンの宴〜名人戦第30期記念特別対局・一番勝負
裏;青空修行〜新春特別突撃インタビュー

1月23日号
表;井山悔しい〜第7期阿含・桐山杯日中決戦
裏;いい棋譜を…〜河野臨 天元戦を振り返る

1月30日号
表;ドイツ開幕〜羽根vs山下!!四天王対決
裏;怪傑規三生〜ベスト4出揃った!NECカップin沖縄

2月6日号
表;関いざ臨戦〜新初段シリーズ②
裏;山下4連投〜王座・天元・棋聖・十段

2月13日号
表;山下(白の)名局〜棋聖戦七番勝負②
裏;華顔蒼天〜3年連続、知念vs万波

2月20日号
表;止まらない〜棋聖戦③山下3連勝
裏;女王は私よ〜女流名人戦三番勝負

2月27日号
表;渾身復冠〜女流名人戦三番勝負②
裏;知念反攻〜ドコモ杯女流棋戦②

3月6日号
表;山下(2年越し)奪還〜羽根に4タテ
裏;万波満開〜涙の失冠から1年!!

3月13日号
表;日本金メダル〜依田バク進3連勝李昌鎬破る
裏;白寿の奇跡〜冴えた早打ち4子局

3月20日号
表;治勲先勝〜好調山下を芸で翻弄!!
裏;善津初V〜5年ぶりに頂点へ立つ

3月27日号
表;凍りつく日本〜1回戦4戦全勝、2回戦5戦全敗
裏;万波桜前線〜姉妹そろって咲いた花

以上並べてみると、大きな手合いがない時には新人や女流を普段より派手に扱ったり、タイトルを獲った後のインタビューなどでしのがれているご様子。新初段シリーズ第2局がいきなり1面トップを飾るとは異例の扱い。「関いざ臨戦」(関新初段vs河野臨天元を短縮)とは、思わずニヤリだ。

メインタイトルは原則横書き、文字数は5字以内。タブロイド版の制約の中でいかに字を大きく目立たせ、なおかつ多くの情報を盛り込もうかとの苦心がうかがえる。定期購読者ばかりでなく、駅などで見出しを見て買うフリーの客も多いからだろう。そう言えば「!」や「!!」も多用されているけれど、奥ゆかしい私にはちょっと気恥ずかしい。

限られた文字数でやりくりできるのは、棋士がたまたま1文字か2文字の名前が多いことが幸いしている。日本棋院の棋士名をさっとながめたところ、3文字は佐々木、小長井、高見沢ぐらい(敬称略)。ただし同姓者が多い場合は規三生とか伊佐男
などと書かなければならない。さらに中小野田、マイケル・レドモンドらになるとどうするのだろう。

統計に基づくわけではないけれど、どうしても同じ2文字熟語が使われやすい。「奪還」「逆転」「先勝」「連勝」「反攻」「初V」「失冠」「粘勝」「辛勝」「雪辱」等々。「返り討ち」「返り咲き」などは長くて使いにくいから「返礼」(ちょっと違うかな)や「復冠」に言い換えるのだろうか。

調子に乗って、向こう1年間の“予想タイトル”をつくってみた(我ながらヒマ!)。まずは勝者から。
「チョーウれしい!」「チョーの舞い」(もちろん、ウックンや趙さんらに使う)
「ケーゴは十分」(山下敬吾、加藤啓子ら)
「高尾をシンジよ」(高尾紳路)
「みなぎるユーキ」(結城聡、加藤祐樹ら)
「チクン一刺し」(チクン大棋士)
「ヨダン許さず」(依田紀基)
「メイエン名演」(オーメンの名局)
「イノリ天に通ず」(祷プロまたはアマ)
「キク香る」(青木喜久代)
「ほとばしるイズミ」(小林泉美)
「ムカイ撃つ敵なし」(向井3姉妹)

もちろん私は敗者にも温かい眼差しを注ぐ。例えば〜
「ハネを休めたり」(羽根親子)
「ごめんねジロー」(秋山次郎)
「無念・知念」(知念かおり)
「梅散るも美」(梅沢由香里)
「矢代くヤッシー」(矢代久美子)
「アキノ憂愁」(井澤秋乃)

そうそう、千寿会の小林ファミリー向けも用意した。
「覚、目覚める」
「優勢をケンジ」
「ハイッ、チーズ」

ムフフ、我ながら素晴らしい出来栄え。懐深き私は、これらを無償で『週刊碁』に提供する決意を固めた(使って!お願い!!)。ついでに誰かに見せびらかしたくなった。こんな時のために存在するのが、ノーテンキなわが親友かささぎさんだ。

いつもヒマしている彼はホイホイやってきた。そして壁一杯に貼り付けたタイトル集をじろりと一にらみするや、「何やこれ。流行遅れのオヤジギャグだらけやん!あほくさ!!」と吐き捨てるや、ぷいとどこかへ遊びに行ってしまった。

何と言うひどい言い草、さげすみの眼差し。西陽が翳りゆく狭い部屋に一人残された私は、小さなハートをこっぴどく痛めつけられていた。

亜Q

(2006.4.16)


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