お金持ちになる性格

 勤務先の窓際で睡眠薬代わりに斜め読みするだけの経済誌に、私の「碁品」を示唆する記事を見つけた。『週刊ダイヤモンド』(5月31日号)の連載コラム「マネー経済の歩き方」が主題に取り上げた“お金持ちになる性格”がそれ。著者の山崎元(はじめ)氏は大手商社、金融、生保など12社をトラバーユした経歴が売りの評論家。私のような経済オンチにもわかった気にさせてくれる書き上手だ。

 コラムは、『お金持ちになりたいなら性格を変えなさい』(荒木創造著、ダイヤモンド社)という一風変わったノウハウ本をひも解きながら進行する。山崎氏は「本屋で見つけた」と書いているが、品性卑しき(碁品は別!)私には本誌の発行元である出版社側から持ち掛けた“やらせ”ではないかと思えるのだが、次のくだりが面白いので「まぁいいか」という気になる。

 山崎氏によると、お金持ちになるには性格や習慣が重要だと説く類書は多いが、この本はお金持ちを全く美化していない点が特徴だと言う。お金持ちに共通する性格をありのままに伝えながら、「あなたの中にもともと潜んでいる性格を活性化するだけでいい」と金持ちになる方法を具体的に説くふりをして、「世の中のお金持ちが人間としていかに感じが悪いかを書いた確信犯的な皮肉の書ではないかという推測を捨て切れない」と山崎氏は喝破する。だから、「本当にお金持ちになりたい人にはもちろん、お金持ちが大嫌いな人にも“役に立つ”不思議な実用書」という紹介にとても共感させられる。

 山崎氏は本書の論旨を二つにまとめる。まずは、「お金持ちになるためには、何にも勝る強い“目的”としておカネを追求しなければならない」。おカネというものは、自分が好きなことをがんばって成功させれば、自然についてくるような生易しいものではない。倫理や体面のうえで“汚い”仕事や単純で興味が湧きにくい仕事でも、“儲かる”という一点に喜びを見出して熱中できる人が経済的には成功する。熱意こそが営業マンの成否を分ける最大の要素だが、強い金銭欲がこれに直結する。「お互いの利益」という建前を口にしながら、実際には自分の利益のみを最大限に追求する冷徹さも必要だと言うのだ。

 もう一つは、「お金持ちになるには恰好をつけてはダメ」という視点。いい人だと思われたいとか、名誉欲とか別の欲望が金銭欲を上回るようなことではお金持ちへの道は遠い。「おカネがあること、それ自体が恰好いいことだ」と思い込めるような“純粋さ”が必要なのだそうだ。消費については単純なケチではダメで、ある種の分不相応な消費、例えばクルマ、住居、装身具といった成金趣味が金銭欲を肯定し、高めるらしい。

 以上のように総括したうえで、山崎氏はかつてベンチャーキャピタリストから聞いた株式上場に成功する起業家に共通する性格——「わがまま」「純粋」「せっかち」「ケチ」「助平」——を並べ、最後の一つを除いて荒木氏の論旨とほぼ完全に一致すると結論付ける。問題はその5番目の項目だが、周到な山崎氏は所謂“傾城(けいせい)”について触れながらさりげなく補足する。

 男の社長が女性に熱中しても、案外会社は傾かない。しかし、社長が「男」に入れ揚げると会社は危ない。この場合、「男」とは政治家や役者、スポーツ選手のような人々または彼らが活躍する分野を指す。一人の男が女に使う金は多寡が知れているが、タニマチ的な支出はケタが大きくなることが多いし、支出に見栄が絡むので止まり難いと指摘して稿を終えている。

 ここまで読み進めて、私(亜Q)も一つ補足したくなった。ここで言う「男」には、棋士、あるいは日本/関西棋院、さらには碁界そのものも当てはまる可能性があるではないか。貧しいながらも清く正しく健気に碁界を応援する私にすれば、碁へのタニマチは女社長でも男でも大歓迎。航空、鉄道、鉄鋼、自動車・電装品、土木建設、物流、IT——業種は何でも構わないから功成り名を遂げた経営者、さらにどこの国でもいいから大
企業家、アラブの石油王、ファンド出資者ら世界の大富豪は競って碁に入れ揚げてほしい。本業が少々危なくなっても何ほどのことがあろうか!

 さらに蛇足の上塗りになるが、清貧の人生を美しく送っている私は、今さら金持ちになりたい/なれるとは思っていない(“偽善的傾向”が顔を出したかな?)。せめての願いは碁が強くなること。ところが上記の「金持ちになれる性格」を「碁が強くなれる性格」に置き換えてみると、どれ一つとして私に当てはまるものはない。つまり私には持って生まれた固有の「碁品」があり、それから逃れられない。言い換えれば人間的に“感じが善すぎる”ということになる。となればザル碁人生も捨てたものではない。山崎氏のコラムを読み終え、私はこの歳にして自らの存在基盤に巡り会った。

亜Q

(2008.5.27)


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