政治と碁

 参議院選での自民党大敗後、小沢民主党首と与謝野自民党官房長官に注目が集まる中で「政治と碁」が取り上げられることが多くなったようでとても喜ばしい。9月10日付朝日新聞夕刊(首都圏向け3版△)には、与党と野党のキーパーソンとなる麻生自民幹事長と小沢民主代表の近況を伝えながら「逆転国会開幕」を報じていたが、記事の最後にいきなり「依田紀基九段」が登場した。私は驚きとうれしさのあまり大いにのけぞり、さっそくこちらに書き込みたくなった。

 社会面(19面)トップに据えられたこの記事は、「覚悟/本気」との派手な横組みのカットを配し、1ページのほぼ3分の1を占めて麻生・小沢両氏の最新の言動と大舞台にどう挑むかを記者が観測するスタイル。以下、文章を刈り込みながらテキトーにつまみ食いさせていただく。まずは麻生幹事長。

 党両院議員総会開会直前の10日午前、硬い表情の安倍首相とは対照的に笑顔で周囲と言葉を交わしていたが、会が始まると「与党が一丸となってバックアップし、(首相の)決意に応えなければならない」と顔を引き締めた。党内には今も参議院選大敗ショックが残るが、「みんな暗いなあ。これじゃ蛾も寄ってこないじゃないか」と議員や職員を励ます場面もしばしば。(中略)難局を乗り切った後に見えてくるのは「ポスト安倍」なのか。「(麻生)太郎さんの派閥は小さい。安倍首相を本気で支えることが、太郎さんの望むポストにつながるのでしょう」との元秘書の発言を添えている。

 (しばし引用を中断)麻生氏の話は、ま、想定の範囲を超えることはない。しかし小沢氏の方は面白かった(記事は2人の記者が書き分けている)。麻生氏に比べると引用が長くなるが、これは政党や政治家個人への共感の差ではなく、引用したくなる内容の差だと理解していただきたい(以下、引用を再開)。

 「あっ、代表!」。10日正午前、民主党会派の代議士会。後ろのドアから入室し、そのまま議員席に着席した小沢代表に、はじめ鳩山幹事長は気付かなかった。執行部に呼び寄せられると、照れ笑いを浮かべながらようやく前方に移り、代議士会の人事提案を手短に済ませた。

 「対決」を前にした小沢氏の心境を、同氏の側近はこう忖度(そんたく)してみせる。「対決、対決と言われるが、今の小沢さんは与党とどう戦うかではなく、国民に党の政策をどう示すか、に向いている」「いよいよ自分が総理をやるしかなくなったと覚悟している」と。

 (引用中断)ここで唐突に依田元名人が登場する。(引用再開)同じ頃、依田紀基九段(41)は小沢氏と碁盤を囲んだ。依田九段が感嘆するほどの見事な打ち方だったという。「澄み切った碁。相当充実しているのを感じました」と依田九段。 「小沢氏の布石にはいつも明確な理由がある。なぜそこに打ったのかを聞くと、即座に説明が返ってくる。練習の時間はないはずなのに、この1年で急速に腕前が上がり、当初のハンディは7子置いていたが、今は4子。棋士でも気持ちに変化があると、こういうことはありますが」と、依田九段の証言で締めくくっている。

 政治と碁。ライバル同士の本音が丁々発止とぶつかり合う手談の世界。近いうちに、政界きっての打ち手・与謝野内閣官房長官と、進境著しい小沢民主党首の碁を是非とも見たい。技術の内容は小局。何よりも、碁に描かれた両者の志のありようを、心あるマスコミに報道してもらいたい。

亜Q

(2007.9.11)


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