ペア碁予想大理論!

ペア碁の強弱を測定する完璧な理論が完成した。ぜひ聞いて欲しい――。
朝っぱらから碁敵O氏の弾んだ声。どうやら昨晩寝ずに考えついたらしい。

O氏は最近、週刊誌掲載対局でC先生にこっぴどく痛めつけられたばかり。
先生も周囲も白勝ちを確信した後も、本人一人終盤まで楽観していたらしい。
その彼がめげるどころか、今度は珍理論に挑戦し、遂に結論を出したという。

この明るさと能天気が私にはないO氏の取り柄、懐深き私の好みでもある。
かけがえのない友が喜んで速報してきた大発見に水を差す趣味は私にはない。
屁理屈とはわかっている。それでも耳を傾けるのが友人としての務めだろう。

ペア碁は女性棋士が鍵を握ると昔から言われるけど、実はそこが大間違い。
棋力や実績ではない、男性棋士の“特性”こそが勝敗を左右すると彼は説く。
(何をいまさら当たり前のことを。要するに、コンビの相性が大切なんやろ)

何やら大発見のごとくまくし立てるO氏の関西弁。巻き込まれてはならぬ。
過剰な言語感性も困りもの。饒舌な関西弁を聞くと私はすぐ伝染してしまう。
どうやら私の深層心理には、「関西」なるものに抜き難い畏怖があるようだ。

自説を縷縷説明する彼の早口の関西弁と棋士への敬称はこの際はしょろう。
ペア碁で最も重要と彼が説く男性棋士の特性はいくつかに大別されるらしい。

まず、プロ棋士全員が一目も二目も置く大御所とか御大と呼ばれるタイプ。
ちょっと前なら坂田、秀行、高川、梶原、今ならオータケ、タケミヤクラス。

御大に準ずるのが、コーイチ、般若、イシダ章ら「棋理」に一家言持つ人。
自分の美学とか感性に絶大な自信を持ち、パートナーの欠点が見えてしまう。

上記と重なる場合も多いが、自分の世界にのめり込むのが唯我独尊タイプ。
自分が描いたシナリオをひたすら追って、パートナーの存在を忘れてしまう。
チクン大棋士、オーメン、リュ−、そして関西のユーキ、イマムラ、ソノダ。
若手でも、ケーゴ、チョーウ、スジュン、ジローらは既に筋金入りと言える。
信じ難いことだが、彼らはきっと女性よりも碁が好きでたまらないのだろう。

これに対して、実績は抜群でも周囲に“怖さ”を感じさせない棋士がいる。
リン、カト−、リッセー、ヨタロー名人、超愛煙家・ショージ、そして覚ら。
怖くはなくても何せベテラン実力者。やはり相手に気を使わせることは同様。

実績・知名度が発展途上の若手は、強烈な個性を秘めていても組みし易い。
タイトル経験者ではあっても、ソンジン、ハネ、キミオらはこの範疇に入る。
タカオ、ミゾガミ、コーノ・リン、ヒロナリ/ヤッシー中野らもこの系譜だ。
ペア碁では“ジゴロ”的な存在だが、なよなよした「可愛い弟分」ではない。
姉を信頼しつつ、自らの責任で道を拓く。男らしい存在でなければいけない。

女流が見るに見かね、ついつい情をかけて自ら手を出してしまうのは禁物。
表面はあくまでたおやか。知性と芯の強さを押し隠し、存分に弟を働かせる。
女流側は“姉さん女房”。男を立てておだて上げ、木に登らせる才覚が必要。

双方の年齢や棋士としての経験年数は重要でないが、女流の棋風は要注意。
「御大」では弟を萎縮させるし、「唯我独尊」ならば相棒の長所を自ら殺す。
現役力士に喩えりゃ「貴ノ浪」。懐深く相手勝手に組ませる、なまくら四つ。

ところで、これはどこが「理論」?個人的な感想・思い込みではないか。
いかに温厚な私でもほとほとしびれが切れた。「早く結論を出したまえ!」

O氏はまるでひるまない。では“最悪コンビ”から予想しよう、とニヤリ。
まず「イヅミ&タケミヤ」。男性は女性の父とライバル、棋風もまるで違う。
それと意外にも「ユカリン&イッシー」。両方とも気配り上手に見えるのに。
だから互いに気を回しすぎて碁にならない、とO氏。やたら自信たっぷりだ。

スギウチ御大と組む青年ユーキも痛々しい。萎縮せずとも力の方向が違う。
浪花女ミカ姐&道産子コーイチ碁聖は、うどんすきとたらちり鍋のごった煮。
けなげなT・アッコの“道頓堀慕情”は国際派剣豪リュ−にはまず届くまい。
実力者、リッセー棋聖、オーメン前本因坊と組むコニシ、ユーミンはどうか。
男性は台湾出身の合理主義者。性格は良くても大和撫子の気配りは通じまい。

自分自身気付いてなかったファザコンの血がカギを握りそうなペアもある。
リン大人、ケンセー本因坊とそれぞれ組むK・トモコ、K・ミツルの二組だ。
男性は抜群の実績。それを重荷に思うか、それとも信頼して力を発揮するか。

同様に、吉と出るか凶と出るか、言わばその日の風任せペアが3組ある。
まずO・トモコ&ヨタロー名人。当日遅刻しなければ大いに期待が持てる。
ただし、サッチ−の調教が行き届き過ぎていると、トモコ姉でも御せまい。
ガンモ&ケーゴの姉弟ペアも強力。ガンモ姉が眠くならないことが前提だ。
前回の覇者、イノリン&チクン大棋士は意外に波長が合うのかもしれない。
しかし波長を信じてマニアックな読みに熱中し、時間切れになるのが怖い。

おい、これでは誹謗中傷のオンパレードだよ。小心な私は気が気でない。
O氏はひるまない。「根底には碁と棋士に対する愛があるから」だそうだ。
有望ペアは4組?どうせC先生にゴマをすって勝たせてもらう魂胆だろう。

まずは、今最も脂が乗ったチョーウ&ケーコ。互いに若いが女流が年上。
伸び盛りの二人が一心同体になれば無敵とは、思い込みの強いO氏らしい。

対抗はキクヨ&ソンジン。ソンジンは天元戦3連敗と不調だが何せ素直。
子育てを通じて揺るぎない自信を深めているキクヨ特製のスパイスが効く。

穴馬は関東女と浪花男のヤッシーペア。年齢・棋歴が近く気楽に打てる。
問題は女流の関西苦手意識と好人物の男性が雰囲気に飲まれないかどうか。

オオトリは案の定、C先生&ハネ天元。「やはりこれが大本命」とO氏。
ハネ天元は今年父親となり、日中戦を制し、最近3連勝でタイトルを防衛。
昨年最多勝からの好調を本年最後まで保つか、鞍上の手綱さばきが見もの。

C先生ならではの熟女のテクニックは確かにすごい。私の取り柄は素直。
いかん!いつの間にか、私は彼の関西弁に丸め込まれてしまっていたのだ。
研究者の彼が本職でもそこまでのめり込むなら、ノーベル賞だって――。

亜Q

(2002.12.4)


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