王座戦五番勝負第1局から

実戦譜 (1-54)

 10月22日の千寿会の大盤解説は、張栩王座に羽根直樹碁聖が挑戦して都内のホテルで20日に打たれたばかりの王座戦五番勝負第1局。小林健二七段と久保秀夫六段のダブル解説だ。

 黒番の羽根挑戦者が右辺星と小目から両ジマリしてスタートした序盤、左上白の1間バサミから黒が三々入りして白16まで上辺を模様化して一段落と思いきや、張栩王座が左下黒17カカリに手を抜いて白18下ガリからすぐに白20、22にハネツギした局面が第一のハイライト。アマの碁ならありそうな気がするが、プロの碁では珍しいらしい。黒はこのまま手を抜いても2-八から2-九ハイで右下の活きが確保されているので、もしかすると挑戦者は喜び勇んで黒23、25と右辺の模様を盛り上げたかもしれない(亜Qの妄想)。

 解説者のお二人の反応は、「プロの碁で以前に見た記憶があるが、自分は気がつかないし、とても打てない」(久保六段)、「後から見返ればなかなかカラい。いかにも張栩さんらしい」(健二七段)。仮にこの手が良い手であっても、「自分たちはこの打ち方を真似することはないだろう」という見方で一致された。

 解説が最も盛り上がったのは、左下白26二間高バサミからの黒の打ち方。黒の選択は上に1間トビして左右にスベルお馴染みの定石だが、2間に飛び上がった白32がなかなか良い手だったらしい。左上の嫌味を解消した黒33、35に続いてすぐ、白は36コスミから左下を決めに出た。以下、白42までほぼ定石通りに進行したが、この時点で既に黒が一本取られていたらしい。黒は43から下辺をまとめたが、白は54まで黒3子を取り込み、上辺から下辺に模様がつながりそうな厚みを形成して大満足のようだ(実戦譜、黒1~白54)。

参考図1 参考図2

 そこで指摘されたのが黒43の是非。「9-十七にアテコミ、白10-十六ノビに黒11-十七に辛抱しているぐらい(参考図1)でどうだったか」(両解説者)。この図ならば黒3子はつながり、下辺中央の白一団にはまだ眼がない。さかのぼって、「上に1間トビした黒27がやや重かったのではないか」と久保六段が提示されたのが8-十五カタツキ(参考図2)。白の対応はいろいろ考えられるが、「黒はいずれの場合も実戦より悪くならない。カタツキはとても良い手に見える」(健二七段)。

参考図3

 さて、大盤解説ではいつも罵声と嘲笑を浴びる愚生亜Qが思いつきで口走った手が健二七段から激賞されたので、まことに僭越ながらご披露させていただきたい。白32と二間に高く飛び上がった局面。実戦では黒は33から左上を用心したが、何も決めずにじっくり7-十四とコスムのはどうか(参考図3)。白36コスミからの強襲は緩和しているし、白が手を抜けば黒9-十五ツケからハネて白を分断する手がある。と言って、白の受けようも悩ましい。白10-十二コスミ、黒7-十二トビなどと上辺へなだれ込んでいけば、白模様も小さくなる。後で左下白と絡んでいけば、ひょっとすると左上の備えも省略できるかもしれない――というのが自画自賛の屁理屈だが、健二七段は「白にとってピッタリした次の手が難しいのが良い手の証拠。秀行先生流の好手」と絶賛してくれた。

 実はこのくだりを書き込みたいばかりに、王座戦ハイライトを取り上げた。運悪く読んでしまわれた変人諸兄は、私の見えないところで思う存分「オエーッ」と吐き叫んでいち早く忘れて欲しい。

亜Q

(2011.10.24)


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