盤外駆けある記

「私は千寿会ホームページの管理人、大会の取材に来ました」
言葉巧みに受付嬢をそそのしてプレスカードを入手したO氏、
さっそうと会場を回り、人垣掻き分け何やらメモを書き書き。

覗き見すれば何々?「ペア碁はサイズがポイント」―何これ?
ようやく聞いてくれたかと嬉しそうなしたり顔でO氏の解説。
定型サイズの碁盤に二人並んで着手するには窮屈ではいけない。
見事にぴったりはまったのは、スマートなユカリン&イッシー。
男性棋士が非・スマートでも女流が十分キュートなら大丈夫。
イノリン・ミツルは大棋士の懐にスッポリ抱かれた赤子の如し。
T・アッコはダイエット効果が今一歩だったか、二回戦で敗退。
杉内御大は小柄でも、相棒のユーキは手足がはみ出してしまう。
最悪は巨漢・和服姿のヨタロー名人。相手が誰でも場所をとる。
しかも席は女流の利き手側、トモコ姉はいかにも打ち難そう。

次は「“気”を消し去る対局姿勢」。ン?棋士は忍者ではないぞ。
タケミヤ先生は神妙に体を後ろにずらし、イヅミの目を逃れる。
目線を揃えるとつい口も手も出そうになる。自制の姿勢なのだ。
チクン大棋士はハンカチを噛み締めて、うめき声を漏らさない。
その分、目は充血、髪は逆立ちまくるが、相棒の目には映らない。
青年ユーキは眠るが如き表情、御大の後ろ上からそっと手を出す。
「つまり、女流の繊細な神経に触らぬよう存在感を消すのです」

ところが、えてして男性大棋士が「時間と手番」でうろたえる。
高うろたえ率トリオを挙げるなら、チクン、タケミヤ、ヨタロー。
そのつど女流は肘で押さえつけたり、和服の袖を静かに引いたり。
男性は「イケネ」「アッソーカ」と大声出したり扇子でゴンしたり。
女流はこうした緊急事態にも冷静に緊張感を持続しなければならぬ。

最後に「盤外記の要諦は感想戦」。これは当然、私にもわかります。
紙数の関係で二点だけにとどめよう。まずは「青年ユーキの豹変」。
対局中はつまらなそうな顔。NHK杯でも同僚にからかわれたらしい。
ところが敗戦が決まった途端に、目玉くるくる、かわいらしい笑顔。
ピシピシと冴え渡るコーイチ大先輩の指摘にいちいち嬉しそうに肯く。
最後はミカ姐の妙手を先輩共々褒め称える。今日稀な爽やか青年ぶり。
関西棋院の旗手はマゾッ気、あるいはファザコンの持ち主なのかも‥。

面白いのはコンピューター・イッシー。感想戦ならまず百戦百勝だろう。
イヅミ・タケミヤを向こうに回してかくかくしかじか、かくあるべし。
「エーット」「ナンツーカ」−タケミヤ先生のくちばしが入る隙がない。
「結局ボクばっかり悪い手を打っていたんだ」とタケミヤ先生は全面降伏。
時間係を務めたR大1年生の女子強豪M.ユカタン嬢も笑っていました。

泉美・武宮ペア対由香里・石田ペア、時計係は千寿会でおなじみの松本さん

さすがのコンピューターも丁々発止のチクン大棋士には少々分が悪そう。
理路整然としたイッシー解説をそのつどジョークですり替え笑いの種に。
「だからこう打ったんだよね、でもすぐに忘れ果てていたものだから」。
それを聞いて賢いイッシーは悔しがること。「ならばこう打つのだった」。
「それにはノータイムでこう。それが敗着になったはず」とチクン大棋士。
最後はイノリンと口調をそろえて「何しろこの日のために…」と合言葉。
「ま、僕らの分まで頑張ってくれたまえ」とイッシーのエールを勝ち取った。

注;本文は棋士への愛着と敬意を背景に、随時敬称を略しています。

亜Q

(2002.12.15)


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