一回り大きくなった姿をぜひまた見せて欲しい〜オンドラ君の帰郷

「ふれあい囲碁大会」でのオンドラ君
「ふれあい囲碁大会」でのオンドラ君

 今年になって、どこか淡白な打ち方が気になっていた。ザル碁アマに2子置かせたお稽古ではあるが、戦いのささなかにふと遠くを見るような視線、苦戦に陥ると心なしか投了する時機も早かったようだ。オンドラ・シルト、17歳。青春の真っ盛り。実の兄のように慕っていたハンス・ピーチと不条理な別れ、そして今、日本での院生修行とも決別する。「挫折」「蹉跌」とは、何と残酷なまでに「青春」になじんだ言葉なのか。

 その彼が11日の朝、日本テレビ系の「ズームイン朝」で紹介されていた。20世紀の終わりに遠いチェコから日本に来て、21世紀の初めに日本棋院の院生になり、2年余りプロへの挑戦を試みた。この間、師匠の小林千寿五段に勧められて王銘エン九段・剣持丈七段が主宰する研究会に参加、さらにこの夏、初の一人旅で因島にある秀策の墓を訪ねた後、小林覚九段の内弟子になった。しかし、プロへの登竜門である最終予選にはとうとう入ることは叶わなかった。

 引導を渡したのは彼を最もよく知る覚九段。この11月、院生手合いの打ち碁を並べるオンドラ君に向かって「これではダメ、碁になっていない」と告げる覚九段、それをうつむいて聞くオンドラ君の姿が放映されていた。いつも元気で明るい笑顔を振りまいていたオンドラ君(本サイトの雑記帳「石の打ち方について」をご覧ください)の暗い表情、そして覚九段のこんな厳しい言葉、憔悴しきった顔を私はかつて聞いたことも見たこともない。囲碁の世界に限らず、命を預かった師匠が弟子に引導を渡すのは本当の愛でしかない。

 今月初め、箱根で開かれた「ふれあい囲碁大会」に顔を出したオンドラ君とのやり取り。「棋書をたくさん持って帰るんだろう」「はい」「ま、久し振りに故郷に帰ってご家族と会うのもいいよね」「いいえ、ボクは全然帰りたくないのです」??。私は返す言葉を失った。

 テレビ放映された場面で彼は言っていた。「どうも自信がなくなってしまってーー」。そう、君は今きっと壁にぶつかって迷いの世界に入り込んでいるんだろう。日本の院生ならばもっと早くそんな時機を通過している。でも囲碁歴の浅い君は最も感受性の鋭い時機に巨大な壁にぶち当たったのだ。ならば故郷で出直すのもいいかもしれない。志を捨てずに出直して欲しい。あるいはもっと若い少年少女を鍛えて、一緒に日本を再訪するのもいいだろう。「日本と日本人が大好き」だと言う彼がまた元気な顔を見せてくれることを心の底から願っている。

亜Q

(2003.12.11)


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