敗れた友の慰め方

 記念すべき第一回寶酒造杯に私と一緒に参加した友が、ご自身の無念を抑えて私を激励する速報を入れてくれました。持つべきものは良き友です。私はとても癒されました。ただ、アタマの良い人は話がどうしても飛躍しがちになります。そのあたりを私なりに補足させていただきながら、当日の経緯をなぞりたくなりました。私の数少ない欠点の一つ、“悪乗り”です。時折こちらを訪れていただく変人諸兄にははなはだご迷惑のことと存じますが、少しだけお付き合い願います。

 事の起こりは、2回戦を終えた昼食休憩。先に対局を終えたらしい友の姿が見あたりません。仕方なく1人で弁当を開くと、肩口で「負けてもうた〜」と友の声。弁当は既に1人で済ませた様子。味は覚えておられたのでしょうか。1回戦は順調に勝てたのに、2回戦の相手が早打ちと変則的な布石で友を惑わしたようです。私は幸い連勝スタートを切ったのですが、自分のことより何よりも上気した表情が残ったままの友の午後の戦いが懸念されました。「1グループ32人だから、残りを勝てば2位の可能性がある」とか、「ま、今回は運を貯めておいて、次回に幸運を集中させる手も捨てがたい」などと私は言ったようですが、いつもはりりしい友の目はうつろなまま。「こんな時、どう慰めたらいいのだろう」と心の中で私は思いましたが、それは口に出しませんでした。

 そして昼食後に迎えた3回戦、最後に残った半コウを争い、相手のコウ立てに対して「隣りのカス石」を抜いてしまった私の投了となったのは友の報告の通りです。残り時間が5分以上あったこと、コウ材は自分が多いと確信していたことなどがすべて裏目に出ました。それにしても相手は終盤に感想を話しかけ、「投げてくれるのかな?」と思わせて着手してきたり、私の放心の一手が飛び出した後の石の取り上げ方がやたら速かったり、なかなかの手練れ上手でした。

 友と私はその後2敗目を喫して5回戦を辞退。応援に駆けつけてくれた千寿会の碁友らを含めて落盤対局を1局終えて早々に残念会に繰り出しました。その席上で、私を負かした3回戦の相手は2回戦で友を破った同一人物だったこと、いずれも二連星から一方の星脇に寄せて三連星まがいに締まり、広い方から小ゲイマガカリした相手の石にすぐにカケる独特の布石で挑んできたことを知りました。年配のフツーのおじさんに見えましたが、序盤と最終盤で友と私を惑わせた魔法使いでした。

 「敗れた友の慰め方」をこのページに書き込もうと思ったと私が打ち明けたのもこの場でした。ストーリーをどう展開してどのように結論付けようかと考えたのは事実です。友はこれを聞くと、「おためごかしは要らん。お前は弱いと言ってくれたらいいんや」とすねておられましたが、そんなこと私にはよう言えません。友の好敵手たる自らを傷つけることになるから。もう一つ、二人の碁友には話しませんでしたが、ついでに優勝したときの台詞案もあれこれ思い浮かべたことも告白しなければなりません。滑り出しが少しうまくいくと、つい“その気”になってしまう。これは数少ない私の欠点の一つなのです。

 しかし結局はすべてがむなしいことになりました。この投稿の締めくくりには少々気恥ずかしいのですが、「友の喜びに我は舞い、友の悲しみに我は泣く」私の崇高な精神に触れざるを得ません。友が敗れた同じ相手に、私も同様に討ち死にしてみせるーーこれが何よりも敗れた友への慰めになるはずですから。ただし私には、数少ない欠点がもう一つありました。それは、人様より“偽善的傾向”が少々強いことでした。

亜Q氏

(2008.5.13)


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