多面打ち

箱根ふれあい囲碁大会や志賀高原囲碁カーニバルに参加すると、必ずプロ棋士による多面打ちが行われる。多面打ちと言えば1人のプロに4〜5人程度のアマが挑戦する場合が多いが、ときには10人、あるいはそれ以上が群れ集まり、「打倒プロ」のオーラが会場全体に立ち込めることになる。

5人以上にもなると「指導碁」と言うより「集団ゲーム」に近い。人数が多い分、早打ちの人は手持ち無沙汰になるほど考慮時間をもらえるが、長考派があまり長考を繰り返して自分だけ進行が遅れてははた迷惑になる。もちろん、終局後にプロからポイントを聞けるのは僥倖と心得て、疑問があれば1、2点に絞って手際よく聞き出す必要がある。初手から並べ直すいわゆる手直しなどはプロやほかのお客さんの迷惑になるから論外だろう。幸い、千寿会では多くても3人に抑えているから手直しもかなり丁寧に受けられるのだが。

多面打ちは会場の都合で横一線にアマが並ぶことが多い。プロは立ちっぱなしで端から端まで往復運動を繰り返しながら、アマを相手にモグラ叩きをしているようにも見える。手練れのプロはそんな時、まず始めに両脇のアマを退治し(ごくまれには投了し)、中心部の対局に収斂させていくのだそうだ。フルコースの西洋料理でナイフとフォークを使う要領らしい。

多面打ちの楽しみはもちろんプロに一泡吹かせ、プロにはほめられ、周囲のアマから尊敬あるいは羨望の眼差しを受けることにあるが、よその手番ではほぼノータイムで打ち進めてきたプロが自分の前に来るたびに立ち止まり寸考を重ねたり、たまにはため息を漏らしたりしててくれる気配を感じるのも気分のいいものだ(残念ながら私の場合はその逆のケースが多いのだが)。

もう一つ大切なのは、プロに見事に勝利したりプロが褒める大善戦をしたりした隣近所のアマを大いに褒め称えること。気難しそうな男性といっぺんに打ち解けたり、還暦をとうに越されたように見える級位者の熟年女性が少女時代に戻ったような笑顔を覗かせたりしてなかなか可愛らしいものだ。これをきっかけに親友や愛人が一人増えたりする。いろいろなプロに打ってもらうこと、その勝敗を超えて、囲碁大会に参加する醍醐味はこうした友づくりの成果にあると思う。

ところで最近、私を含めて碁友が3人そろったことがある。当然、友の家で碁を打とうということになったが、3人では1人がはみ出る。こんな時、遊びをせんとや生まれ来た私は常に独創的なアイディアを捻り出す。ストイックな少年時代を送った頃、一人ピンポン、二人野球、三人マージャン、四人花札などを必要の都度考案してきた実績もある。さっそく碁盤を3面用意してもらい、三角形に並べる。3人はその頂点に座ってそれぞれ2人を相手に打つのだ。2人プレイに倦怠感を覚える向きは刺激的な3人プレイを試みられてはいかがだろう。

亜Q

(2006.8.1)


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