名人戦リーグ開幕〜朝日新聞と亜Qとどちらを信じますか?

 ぬ、ぬゎんとしたことか、我らがシャトルの名は親友リッセ ーと共にどこへ消えた!大新聞だからと言ってそんな馬鹿なこ とは許せない。売られた喧嘩(誰も売っていないって?それも そうだけど…、でも納得できない!)は堂々と受けて立とうで はないかーー。囲碁端会議ではサヤカ&レーブンの話題がしき り(シャトルに対するレーブンのちょっといい話も出ていた) だが、そんなことは言ってられない。そこで、気を静めつつ本 題に入ろう。

 第29期名人戦リーグが12月に開幕する。主催社の朝日新聞が 恒例の「リーグ展望」を11月26日付の朝刊に掲載していた。メ ンバー(前期成績による序列順)はケーゴ、カイホー、チョー ウ、リッセー、チクン、オーメン、そして新参加組(序列7位 )が関西棋院のイマムラ、関西総本部のキミオと並んで我らが シャトル!

 平均年齢は39.4歳。44歳のシャトルは超オジンのカイホーは 別格として、チクン、リッセーに次ぎ、ちょっと年下のオーメ ンの兄貴株に当たる中年世代。以下、若年寄のイマムラ、キミ オ(共に30代)、さらに25歳と23歳の青年組(ケーゴ、チョー ウ)といった顔ぶれ。いずれ劣らぬ今が旬の実力者だ。

 朝日新聞(観戦記でお馴染みの荒谷記者)が招集した予想役 は24世名誉本因坊イッシー、ヨタロー名人と盟友のヒデキ、そ してご存知のカナ女流。彼らが挙げた本命・対抗・黒馬はそれ ぞれ次の通り。本命:チョーウ、キミオ、ケーゴ、対抗:チク ン、オーメン、キミオ、黒馬:カイホー、イマムラ、チョーウ 。

 もうお気づきだろう。シャトルの名がリッセーと共にどこに もないのだ。これは人間観察の達人たる私の予想とは著しく異 なる、いや、正反対なのだ。その根拠を記していこう。ただし 、私の手元にはメンバー同士の対戦成績や最近の勝率などのデ ータはない。ま、素人の独断と偏見だが、唯我独尊の気がある (古女房の評価)私はひそかに(そして真顔で)朝日新聞に真 っ向勝負を挑んでいる。しかも、ここではなまじ客観的風なこ とは言わず、すべてシャトル側から評価し、判断するつもりだ 。ここで「ふ」っと笑って読者をやめる方が多いのは覚悟の上 。

 シャトルを除いて名実共に“実力者”と呼べるのはチクン、 リッセー、そしてやや安定性に欠ける(理由は後述)がオーメ ンか。カイホーは年齢(つまり往年の二枚腰が不在)が問題、 キミオはバランス感覚に優れ現在絶好調だが、リーグ戦を勝ち 抜くアクの強さが今ひとつ(以前に取った王座位はリーグ戦形 式ではない)。イマムラは関西宇宙流ソノダに似て私の好きな 棋士の一人だが、臨機応変より頑固を好みそう。ケーゴはセー ケン妹と晴れて結婚、その強みが出るか、私はむしろ、ヨタロ ー名人に完敗した後で「迷いの1年に入るかもしれない」との イッシー評を重視する。チョーウは私から見れば元タイガース の新庄みたいで、活躍の度合いは読みにくい。イズミとの結婚 もあってきっと頑張るだろうが、各棋戦で相次いだ“大勝負疲 れ”が気になる。

 お察しの通り、私の結論は中年世代が主役。本命シャトルと リッセー、対抗チクン、オーメン。黒馬はチョーウ。3人に絞 ればシャトル、リッセー、チクン(補欠はオーメン)の順番。 ただし、それぞれに弱点がある。チクンは一度壊した自分が再 構築されているかどうか。傍から見れば立派に立ち直っている ようでも何しろ頑固な御仁、自分を疑うことを決してやめよう としない。オーメンは「碁に勝つことよりも好きな手を打ちた い欲求が人一倍強いタイプ」(イッシー)だからリーグ戦を継 続的に勝ち続けるのが難しい(だからこそ、私はこの二人が好 きなのだが)。勝負師リッセーはチョーウと同様に大勝負疲れ が問題。もう決して若くはないから。

 シャトルもチクン、オーメン同様、勝負より碁の真髄を探り たがる。堂々と筋を通す強烈な意地っ張り(正義漢)でもある が、その分、ひとたび波に乗れば本来の実力を存分に発揮する 可能性が強い。前期棋聖リーグで残留できなかった悔しさもバ ネになりそう。もう一つ、私が重視するのはリーグ戦のスケジ ュール。12月にスタートして彼は誰よりも早く打ち終えてしま う。私がひそかに懸念したスタミナ面での問題は杞憂だったと 思いたい。

 しかも最初の相手はカイホー。私見では最初に当たらせたく ない相手はチクン、オーメン、リッセー、イマムラ。いずれも 強烈な個性にあふれる独特な棋風を持ち、勝敗は別にしてシャ トルの感性を微妙に狂わせる可能性があるからだ。その他の棋 士は大ベテランのカイホーにせよ、後進の若手にせよ、彼のデ リケートな碁を破壊する(関連説明を後述)までには行かない と私は思う。その意味で、気心の知れた大人、カイホーとの緒 戦は幸運だった(カイホー、および彼のファンの皆様、ごめん なさい)。

 肝心なのは、緒戦三者(12月カイホー、1月チョーウ、2月イ マムラ)との戦果。ここで最低でも2勝して潤滑油を全身にめ ぐらす。私見では、ヤマは3月のリッセー、4月のキミオ戦。 ここを勝ち抜けば挑戦権が見えてくる。ケーゴ、チョーウのフ ァンには申し訳ないが、しっかり勝ちを予定させていただく。 こうなれば最後の難関であるチクン、オーメンとの勝負も十分 に歩がある。紙一重の差でしのぎを削るトップ同士の戦いだか ら、もちろん楽勝・楽敗もあるだろう。

 シャトルの弱みを述べよう。千寿会サイトではあっても私の 座右の銘は公明正大。決して身びいきはしない(キッパリ!) 。一つはリーグ戦で置かれた立場。序列最下位だから、同じ成 績なら上位者に頭ハネされる。早いうちに1、2敗すると、今 期の目標を残留に置き換え、勝負を来期に持ち越す可能性は少 なくない。人間だから、どこかの時点でとりあえずこれで満足 しようと思うことはあり得る。

 より重大なのは、彼独特の“優しさ”。以前にも書いたが、 彼は素人相手のお稽古でも“喜んで”勝ちを譲る(便乗して言 えば、このあたりはザル碁の私とも酷似しているから、踏み込 んだことが言えそうな気がする)。つまり、相手の良さを自分 なりに理解した時点で満足してしまうのだ。「あなたの気合が よかった」とか「この感性は素人離れしている」とか、碁で誉 める言葉が見つからない時には「あなたはマージャンの名人に 違いない」とか。それも冗談やおちょくりではなく、真心から 言うところが変わっている。猛父・烈婦(えっと、これはもち ろんシャトルのママのこと、チーママではありませんよ〜)に 厳しく鍛えられ、姉と兄に可愛がられた彼が碁の世界で培った 色々な経験や独特の感性と相まってしっとりと育んできたのだ ろう。

 通常なら立派な人格と誉められるこの“優しさ”はリーグ戦 や番碁を争うには不向きだ。前期名人戦リーグの解説記で、彼 は担当記者にこう漏らしている。「自分とは価値観が全く違う すごい打ち手に出会うと、そのすべてを知りたくなって自分の 打ち方を相手に合わせる」と。早い話、相手が小太刀・二刀流 の使い手なら、自分本来の正眼の構えを捨てて同じ小太刀で闘 う、あるいはワルツを踊っていたのに相手が極上のブルースの ステップを踏んでいたら、喜んで自分もブルースに変えるとい った具合い。

 表に出るのはシャトルの意地か“優しさ”か。29期名人戦リ ーグはこの一点にかかっていると思う。

亜Q

(2003.11.27)


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