囲碁っている社長の生活

政光氏
政光氏(週刊ダイヤモンドより転載)
柄にもなく、たまに経済誌なんぞに目を通したりすると、おやっと思う人に出くわすことがある。かささぎさんが愛用している「ポケット碁盤」の開発者、“おんぶパパ”こと政光順二さん(42)だ。お見かけしたのは『週刊ダイヤモンド』の連載コラム「転⇒展⇒天職」(第108回=6月11日号)。天職を求めてチャレンジした各界の人物に聞く「回り道してつかんだ働く充実感」が売り物だ。

政光さんは1986年に京都大学を卒業して島津製作所に入社。ソフト制作技術者として腕を振るう。しかし40代に入って現場の最前線から退くと、会社は一生を賭ける場所とは思えなくなったらしい。その後はむしろ社外での活躍が目立ち、インターネット囲碁分野で知る人ぞ知る存在になったようだ。きっかけは小学生の長女との碁。手ほどきしながらネットで情報交換を始めたのが転機になったという。

在社中の88年に棋譜管理ソフトを開発してネットで公開。99年にはソフトコンテストで大賞を受賞。01年には囲碁を通じて子供の能力開発を図る「囲碁きっず」を開設。そして02年4月に島津を退社。独立後の挑戦課題は「碁のIT時代を切り開く次の一手」。碁は必ずネット対局が主流になると見込んだ。知人と株式会社「きっずファイブ」を設立する一方、関西棋院と共同でネット対局道場「関棋ネット」の運営にも乗り出した。一般およびプロ棋士対局、アマとプロによるチャット、音声による指導碁などのサービス機能も整いつつある。さらに韓国囲碁界との共同事業も計画している。

以上、掲載記事のさわりを抜粋したが、思わず胸がキュンとさせられたのは、転職前後の彼の年収比較。何と、島津在社中の700万円から、現在はゼロ!金額の桁は違うが、不遇を覚悟で大リーグに移籍した元近鉄の中村選手みたいではないか。さほど伸びない囲碁ネット人口、鎮静化した『ヒカルの碁』ブーム、さらに提携先が手を引くというアクシデントや私事でのトラブルもあったらしい。

それでも、当のご本人はケロッとしている。「週末には長女と水入らずで碁を楽しんでいるし、低コストの事業だから生活費は貯金の残りで工面できる。事業が軌道に乗るまでもう少しの辛抱です」と、ニコニコしながら記者に語ったらしい。参考までに、記事で紹介された政光さんの人物評は「口下手だけど胸の奥に熱いものを秘めた人。頼り甲斐があります」(共同経営者)。

政光さんもまた、数多の棋士と同じく“碁に見せられたる魂”の一人なのだろう。ホームページをのぞくと「囲碁っている社長の生活」ぶりが率直に綴られている。面白かったのはホリエモンを例に挙げながら、「大金持ちだが不機嫌」より「借金の山だが上機嫌」がいいと説いているくだり。「いい仕事をしたいのも、お金がもっと欲しいのも、よい友と巡り会いたいのも、おいしいものが食べたいのも、いい家に住みたいのも、結局、毎日を少しでも気分よく過ごしたいから」「1年前と比べると自分はいらいらしなくなった。生き方・考え方が変わったから」と達観しているのは、お見事の一言に尽きる。

亜Q

(2005.6.7)


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