「強烈な努力」余聞

秀行先生の偲ぶ会で記念品としていただいた扇子には「強烈な努力」としたためられていた。扇子の箱には小さな紙が入っていた。そこには、

強烈な努力
これだけは伝えたい。
強烈な努力が必要だ。
ただの努力じゃダメだ。
強烈な、強烈な努力だ。
藤沢秀行

と、きつい言葉が添えられていた。私には耳が痛い。

この揮毫について、NHKのクローズアップ現代の秀行先生の特集では、今年の4月、病床で書かれた最後の書であると伝えられていた。とても死を前にして病床にある人の字には見えない。

昨年の12月に行った秀行書展(参考1参考2)でもこの書を見た。そのときも強烈な印象を持った。NHKで最初にこの書が映し出されたとき、秀行書展で見たから書かれたのは昨年以前で、今年ではないはずなのでは、という疑問を持った。

偲ぶ会で藤沢晶子さんにお会いした。晶子さんは秀行先生の書展のお世話をいつもされている方で、この偲ぶ会でも始終忙しそうに動かれていた。その忙しい中に割り込んで私の疑問を尋ねてみた。分かったことは次の事だった。

確かに、秀行書展でも「強烈な努力」はあった。でも、それは今回の横書きの書ではなく、縦書きの「強烈な努力」であった。(いつもながら、私の記憶はいい加減である。)その書展であの書をほしいという客が来られたのだが、そのとき、既にその書は売れてしまっていた。どうしてもほしいというその方のため、秀行先生はもう1枚書くと約束をされた。その後、秀行先生はご存知のように入院されてしまった。しかし、約束は必ず守られなければならないという信念の秀行先生は病床でそれを実行された。ベッドの上の食事を摂るための細長いテーブル、その上で書かれた。そのため、2枚目の「強烈な努力」は横書きになった。

合掌

かささぎ

(2009.8.23)


もどる