箱根ふれあい大会でレーブンが“私的大賞”を受賞

講師陣と美女たち
講師陣と美女たち

 日本棋院80周年記念に制定された「囲碁殿堂」に、道策ら4人が選ばれたそうだ(江戸時代対象)。何しろ大盤振る舞いが好きな私は、そんなことはとっくに実践して「私的囲碁大賞」の名前を勝手につけて多数の受賞者を輩出させている。選考基準には棋戦での実績や棋院への貢献は含めない。各種タイトルや表彰がすでにたくさんあるから、似たような重複は避けたい。

 授賞対象を一口で言えば、「私の琴線に触れた人物やその行動」。独り善がりに乱発できる点がミソだ。“私の琴線”などと言えばレベルが低くなるが、些細なことでも軽いタッチでどしどし取り上げられる。賞金・賞品の類は一切なし。出したいのは山々だが、せっかくの志が低くなる。決してケチなのではない!

 過去の名誉ある受賞者(および受賞理由)を思い出すまま、順不同で列挙しよう(一人でパチパチ)。
●いぶし銀のイシグレ九段(心に染みる潔い投げっぷり)
○S.モー鬼才(別名“正義の般若”、ネット棋院の立ち上げと誠意溢れた孤軍奮闘ぶり)
●清貧・中野孝次(私財を投げ打ち「U20選手権」を発足させた品格高き哲学者)
○重野由紀・休場棋士(海外囲碁普及活動と帰朝報告会で見せた一滴の涙)
●悪役ジョー(教え請う後輩やアマに対する虚飾を捨てた愛のムチと療養後の節制ぶり)
○弁護士カサイ(アマに徹頭徹尾奉仕する「ふれあい囲碁大会」をボランティアで手作り)
●元本因坊ソンジン、フツーの棋士ドイら(抜群の歌唱力、前者は高音、後者は低音が魅力)
○カジワラ・カトー・コーイチ(古めかしいオヤジギャグをめげずに使い続けるど根性、というか中年を過ぎた男のサガ)
●チクン大棋士(当意即妙な解説と挨拶は彼一流の世界、最近の絶不調も人間らしくて好もしい)
○ドラマー・カタオカ、関西の津軽三味線弾きN.ヤッシー(前者は山下ジャズピアニストと競演)
●オーメン・メーコー兄弟(前者は創意あふれる棋譜づくり、後者は創意あふれるソフト開発)
○T.アッコ女流(ちょっと見ぬ間にずいぶんきれいになった。カロリー計算に長けた碁界の栄養士)
●ヨタロー名人とワイシャツはみ出しユーキ(碁に賭ける情熱と言うより、世俗に疎い赤子のような純真さがたまらない)
○小川トモコ姉御(いつまで経っても崩れない上品なカマトトぶりにつくづく惚れています)

 このほか、下記諸氏の軽妙・率直な文章に対しても軽々しく奮発するのが私的独善流の粋。
●ケメオ(ちょっと前に囲碁ワールドに連載した「道頓堀交遊録」、関西女流T.アッコの話が秀逸)
○ガンモ(HPで展開する独特な不思議ワールド、特にホーサイ大先輩に対する敬愛あふるる描写)
●Y.シンジ(ケメオ同様、囲碁ワールドへの連載。率直・朴訥な語り口はとっても共感できる)
○ヤッシー(週刊碁に連載された「ナチュラル通信」。オトボケ文体を確立して芥川賞を狙う)
●マツウラ記者(体型そのまま馬車馬のように働く観戦記者。私の碁も好意的に書いてくれたと思い込んでいる)
●+棋士・文士の面々=テンコレ、タイゾー、シラエ(彼らは棋士よりも文士と私的には位置づけている)
○M.タエコ女流(人生の転機を迎えた心境を週刊碁「プチ・ダイアリー」で吐露)

 心広き私は身近なライバルにも大盤振る舞いをためらわない。下記諸氏はごく一部の間で結構有名人。
●かささぎさん(千寿会ホームページを勝手に立ち上げ、病床の私を見舞って碁を打ってくれた)
○M師匠(碁を始めたばかりの級位者時代「ハンス・ピーチ追悼の夕べ」の実質発起人になった)
●快男児F(千葉県柏地域で特に子供を対象に囲碁普及活動、時々私に美酒を飲ませてくれる)
○オトボケ・ユカタン(珍問=「詰碁+α」参照=に挑戦して名答を披露した元高校選手権者)

 まだまだあるのだが、話題がどんどんローカルに陥っていく。ここでは控えるのが上品か。

 ただし、「大賞」受賞者は発表せねばなるまい。ご存知、チーママである(再び一人でパチパチ)。受賞理由は「ハンス・ピーチ、オンドラ君ら愛弟子の不幸・不運を乗り越えた健気なおんなっぷり」。師匠として故郷ドイツのピーチの両親を訪ね死亡報告された際にはもらい泣きを禁じ得なかった。

 話が湿っぽくなった。しかも上記は本題に入る前のほんの枕のつもり。つい忘れて長くなった。饒舌は、結婚式披露宴で延々45分にわたって挨拶したというqin太師から感染した唯一の私の悪癖。

 それでは本題に入りまぁす。「私的囲碁大賞」、新受賞者発表!(3度目の一人でパチパチ)。・・・・・・・・・「コー・レーブン君!!」(4度目も一人でパチパチ)。

 孔令文、日本棋院四段。1981年9月生まれ、中国のどこか出身。毛並みはイズミちゃんに負けない。父のジョー「耳」を3つつないだ字)・エーヘーは、日本が圧倒的優位にあった四半世紀ほど昔、日本のトップ棋士をなぎ倒して“鉄のゴールキーパー”と恐れられた中国棋界の大貢献者。母の孔祥明はゼイ・ノイらとともに女流としておそらく世界一、二を争った、これまた実力者。岳父はシャトル。愛妻はシャトル長女サヤカ(清芽)。8月に男児が誕生、哀れシャトルは祖父となる。

 受賞理由は「ふれあい囲碁大会で見せた献身的な奉仕活動と、若手リーダーとしての溌剌たる魅力」。

 富士箱根ランドで6月11〜13日に開かれた第5回ふれあい囲碁大会は参加客120余名、初の3桁の大台。棋士は弁護士カサイ、シャトル、レーブン、そして人気随一の若手、カナ女流棋聖と関西のセト五段。イセ・キノシタ夫婦インストラクターが加わるが、彼らは2日目の夕飯時まで想像を絶する苦役の連続。大会は「無料指導碁打ち放題」の触れ込みだから、レーブン以下の若手は1人50局ほどは打たされる。

 ところが棋士が無事勤めを終えた夜の飲み放題宴会の後、レーブンが苦役をさらに続けると宣言した。おそらく午後11時に近かっただろうが、この機会逃すべからず、私を含む30人余りが馳せ参じた。1局平均して160手として、レーブンの着手はざっと5000手。いくら早く打っても相手が考える。いつしか日が変わって午前1時を回っても終了局は1、2程度。私も真っ赤な顔して熟考を重ねる。その頃、カナ女が助っ人に登場して4、5人を相手に対局を継続していくが、レーブンの相手はまだ26名。疲れた素振りも見せず、相手に投了を促さず、自らも適当な幕引きをせず、一心不乱に打ち続ける。

 その目の何と美しきこと、姿の何と凛々しきこと、男の私でも惚れ惚れする。彼は顔が良くなった。サヤカが惚れて、シャトルが見込んだ男。もうすぐ父親になろうという充実し切った男の中の男??。今年に入って棋戦の実績は負け越し、本人も不本意だろう。しかし成長途上のオーラが光彩を放つ。もうすぐ2時になる頃、私の正面にいた男性が緊急動議。「もうこのあたりで先生を解放しよう」??。私は即座に賛成した。幸い、座の一同も拍手で応じてくれた。ところがレーブンはこれで終わらない。26名一人一人の対局を回って、勝負および引き分けの判断と丁寧な寸評を加えていく。私は感動した。ところで、私の4子局は大寄せに入った時点で盤面15目以上の大差で黒勝ち。昨年の借りを返した。私の信条は公明正大。勝たせてもらったから授賞するといったけちな考えは断じてない、絶対に誤解しないで。

 もう一つの授賞理由は、おそらく今最も人気が高く多忙なカナ、セトを呼び込んだリーダーシップ。下世話な話になるが、大会収入は多寡が知れている。引っ張りだこの2人は実質ボランティアだろう。6月で22歳になるカナ、まだU20の有資格者セトは敬愛する先輩レーブンの誘いに応じて喜んで参加したのだ。しかもセトは次回(12月3〜5日)も来ると約束してくれた。ザル碁アマが生意気なことを言うが、こうした人間的魅力こそが、棋士としての大成を促すと信じる。

亜Q

(2004.6.16)


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