第一線女流プロ18人の指導碁イベントが創設された!

藤沢里菜初段と対局する梵天丸氏。細かい碁だったが、最後に右上をセキにされ惜敗。

「ゴールデンレディース」と名付けた歳末チャリティー指導碁会が12月17日、スポンサーのエース交易本社(東京・渋谷)会場で開かれた。本年3月に東日本を襲った大震災をきっかけに創設された豪華企画。謝イーミン女流三冠をはじめ、ベテラン青木喜久代八段から12歳の中学1年生プロ棋士の藤沢里菜初段まで人気女流棋士が勢揃いし、およそ200名のアマ棋客が挑戦してご指導を受けた。小林千寿師匠は総合司会と囲碁講座を担当、千寿会の教え子たち10数名も参加させていただいた。

ご指導いただいた女流棋士はこのほか、小山栄美・岡田結美子六段、矢代久美子五段、知念かおり・大沢奈留美四段、菅野尚美・穂坂繭・巻幡多栄子・奥田あや三段、万波奈穂・下坂美織二段、渋沢真知子・長島梢恵初段を含めて総勢17名(都合により1名欠席)。日本棋院所属棋士は400名弱、そのうち女流棋士はざっと40名程度だろうか、そのほぼ半数が顔を見せてくれた。いずれも新聞、テレビ、雑誌を通してお顔馴染みの方ばかりだ。

こうしたイベントとなれば、図々しいオジサン役を自ら演じる私は片端から棋士に話しかける。最も長く話したのは里菜ちゃん。昨年暮れに千寿師匠が主催されたホテルニューオータニでのクリスマス会で教えをいただいた亜Qを奇跡的に覚えていてくれた。「今年の成績はどうだった?」「全然ダメでした」「そうねぇ、里菜ちゃんが相手だとみんな目の色を変えてやってくるだろうから」「まだ実力が足りません」「毎日どのぐらい勉強しているの?」「学校から帰ってから家で5、6時間ぐらい。でもなかなか集中できなくて」「今中学1年生だよね、学科は何が好き?」「得意というわけではないけれど、国語が好き」「国語と言ってもいろいろあるじゃない。現代文、古文、漢文…」「漢字が好きです。読んだり書いたりするのが楽しい」「やっぱり、漢字にも造詣が深かったおじいさん(秀行老師)のお孫さんだなぁ。ところで、漢字の研究に生涯を捧げた白川静さんって知っている?」「いえ、知りませんでした。家に帰ったら調べてみます」――。素直な里菜ちゃんに惹き込まれて、2回の指導碁の合間に30分ほど設けられたせっかくの休憩時間を独占してしまった。

お次はヤッシーこと矢代五段。独特のB型感覚が私のご贔屓だ。「ピアノはかなり上達されましたか?」「ちょっと熱が冷めています」「では、自転車には乗れるようになりましたか?」「まだ乗れません」「料理は?」「実はいまだに“オクラ納豆メカブぶっかけご飯”ばっかり」「ご主人(金澤秀男七段)はお元気ですか?」「相変わらずですぅ」「書道の方は?」「いいえ、やってません。もしかして、他の方と混同されているんじゃありません?」――てな調子。このところタイトルにご無沙汰、子育てに忙殺されるわけでもないのに、ちょっとしたモラトリアムを謳歌されているようなのだ。ひょっとすると今なおこっそりと、芥川賞を目指されているのかもしれない。

小さい頃おじいさんに連れ添われて千寿会で修行された奥田あやちゃんとはいつも対話が弾む。「昇段おめでとう!」「ありがとうございます」「先日の『週刊碁』に顔写真付の記事が載りました。ほかの人から何と呼ばれているかなどが書かれていましたね」「恥ずかしくてちゃんと読んでいないのです(ホントかなぁ←亜Qのつぶやき)」「来年はタイトルを取った時の感想インタビューをお願いします」「とりあえず、名人リーグ残留を目指します」――。あやちゃんは昭和63年11月生まれ。万波奈穂(同60年)、下坂美織(同61年)、向井チアキ(同62年)嬢たちと並ぶ花の独身実力派。年下の謝イーミン(平成元年生まれ)三冠から一人でもタイトルを奪えば、女流碁界はさらに盛り上がるだろう。

当の謝イーミン嬢は最も若いのに、タイトル者らしい貫禄が備わってきた。小学生の男の子や関西の囲碁雑誌『梁山泊』の編集に活躍される長谷川加奈美女史らから次々に依頼される色紙に丹念に書き込んでいる文字は「泰然」。どんな刺客が訪れても、平常心をもって迎え撃とうとの心意気だろうか。「然」の字の下の四点を白波を描いたマンガ風に続けるところに、若い女性特有の可愛らしさを覗かせてくれたような気がした。

チアキ嬢の姉でありテレビ番組でもご活躍中の向井3姉妹の次女、長島梢恵さんとはどうしても子育ての話題になる。「晴太ちゃんはお元気?」「いえ、晴太は姉(芳織二段、三村智保九段とは少々歳の差がある新妻)の子供で、私の子は千紘です」「いつも間違えてごめんなさい」「いえ、いつも応援していただいてありがとうございます」「ところで、大震災が起きた直後、山下敬吾名人や河野臨九段らとあなたも参加された有志棋士と囲碁アミーゴスタッフが共同で催したチャリティー囲碁会は大盛況でした。日本中が愕然としている時、膨大な準備を短時間でこなしてプロ棋士ができることを真っ先に世間に示した素晴らしい企画でした」「そう言っていただけるととてもうれしいです」。そう、梢恵さんはこうした活動も良く似合う人だ。

つい先日、昇段されたばかりの下坂美織二段には「本日第1回目の指導碁の成績はいかがですか?」「はい、2勝2敗でした」「ほぅ、それはそれはアマへのお気配りが感じられる。美織先生がますますいいオンナになりつつある証明ですね」「ウフフ、そうですかぁ?」「そうですとも。馬齢を重ねる愚生にはそういうことがひと目でわかるのぢゃ!」。

そして今年ジューンブライドになられた渋沢真知子さんには、「新婚生活はいかが?」「まだ主婦業は初級です」「吉原(旧姓梅沢)由香里さんや三村(旧姓向井)芳織さんのように姓は変えないのですか」「はい」。そう言えば、本日のゲストの中には、結婚で改姓された人と旧姓で通される方がほぼ半々。前者は岡田、菅野、小山、長島プロたち。後者は加藤、知念、穂坂、矢代プロ。真知子さんには、ぜひとも由緒ある渋沢姓で頑張っていただきたい。

さて、私がご指導いただいたのは、杉内寿子元棋士会長と並ぶ女流最高段位者であり多数のタイトルに輝いた青木喜久代実力者。会場にはおしどり夫婦のご両親もお見えになられた。「開催前の10分ほど、父上と話をしました。アマの囲碁大会などで父上の強豪ぶりは存じていましたが、母上はいかがですか?」「なかなか上達できないようです」「実は10年ほど前、軽井沢の囲碁セミナーでご両親にお会いした時、父上から“私の妻と打ってくれ”と頼まれたことがありました。当時私は、初段ぐらいだった母上とほぼ同じぐらいの棋力でしたから、父上はちょうどいいと思われたのでしょう。母上はとても品がいい碁を打たれるなと感じました」「エエー、そうですかぁ?それはそれはお世話様でした」といったやり取りが功を奏して、自由置き碁4子のご指導を時間いっぱいかけて懇切丁寧に受けることができた。喜久代先生、ありがとうございました。

といった具合に時間があっという間に進み、せっかくお目にかかった多数の棋士に心を残しながら声をかけずにお別れした。この場をお借りして、ひと言話しかけさせていただきたい。まずは岡田結美子さん、父君の安倍先生にはとてもお世話になりました。日本棋院に近い定食屋でお代わりを頼まれ、お酒も歌もイケた温かく頼もしかった先生があんなに若く亡くなられたのは私ごときにとってはもちろん、日本碁界にとって痛恨事でした。どうぞ、安部先生の分までご活躍願います。

菅野、小山、知念各先生には、棋士をご伴侶とされる楽しさ、苦しさなどをお伺いしたかった。特に菅野先生の岳父(昌志プロの実父)は昔私が有段者になりかけた頃受けた“酔いどれ”名講座をお伝えしたかった。美しさに磨きがかかってこられた奈留美、巻幡、奈穂のお三方には、渋沢真知子さんをはじめ、万波佳奈、井沢秋乃さんらの相次ぐ寿にどのように刺激を受けられているかを鋭く問い詰めたかったのだが、またのチャンスに期待しよう。

最後に、このような機会を提供いただいたスポンサーのエース交易さんへ。これまでも女流トップに100万円の賞金を出す独特の大会を開催されてきたけれど、会社創業40周年を迎えてアマのための大会に装いを改められた。大会参加者はみな喜んでおり、ぜひとも長く続けていただきたい。会場で配られた案内資料の中には数枚の「お米袋」が入っており、我が家の古女房も大喜びだったことをお伝えして、だらだら続いた駄文を閉じさせていただく。

亜Q

(2011.12.19)


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