「囲碁の教育効果」を愚生にも与えたまえ!

 6月13日付日本経済新聞夕刊の社会面トップに、「考える力を養う囲碁」「小学校や大学で授業に~礼儀も学べる~」と見出し・脇見出しを付した1面のほぼ1/3を占める大きな記事が載った。東京都中央区の小学校4校や青山学院大、埼玉大など囲碁を授業科目として教える教育機関が増えていると例示する一方、論理的思考力や想像力を育む効果が注目されて、数年前から話題になっている「囲碁ガール」の追い風となってファンの裾野はさらに広がりそうだと見通している。以下、日経紙に敬意を表して同記事を抜粋しながら進めさせていただく。

 囲碁授業を導入した中央区教育委員会の狙いは「集中力や思考力、礼儀作法などの育成」。「他の区からも相談が多いから、来年度はもっと増えそうだ」と担当者は語っている。青山学院大は4月、全学部の学生を対象に「囲碁で養うロジカルシンキング」を開講。定員50人に対して4倍の応募があった。埼玉大も今年度から教育学部の選択科目「スポーツで養う思考力」の一部で囲碁を取り入れた。数年前から囲碁を単位認定科目にしている東京大、早大、慶大などに続いて私立や地方大学に広がってきたのは若年層に囲碁人気が定着してきたためという。

 日本棋院によると、囲碁マンガの人気などを背景に小中学生の囲碁大会参加者数は今世紀初めから現在にかけて1千人台から4千~6千人に、高校選手権参加者は4千人以上で安定している。昨年は若い女性囲碁ファン「囲碁ガール」が話題になった。東大などで囲碁を教える吉原由香里棋士は「互いの主張をぶつけ合いながらも限られた碁盤を分かち合う囲碁は、思いやりや礼儀なども学べる。思ったより難しくないので、触れる機会がなかった大人も一緒に楽しんで欲しい」と呼びかけている。志半ばにして57歳の若さで早世された昭和・平成の名棋士、加藤正夫(劔正)元名人本因坊・名誉王座が日本棋院理事長時代、囲碁を教育の場に活用したいと種をまいてこられた成果が一つ一つ実を結んできたようだ。

 以上の本記に加え、「脳の働きが活発になる」との大学での研究成果を囲み記事で紹介している。東北大の川島隆太教授(脳科学)はこの4月、「囲碁が児童の認知発達に好影響を与える」と発表、日本棋院と共同で東京近郊の囲碁未経験の小学生約170人を調べたところ、5週間の囲碁講習を終えた後に児童の成績が2~4割上がった。対局中の脳波を赤外線で測ったところ、思考力をつかさどる「頭頂連合野」で血流が増え、「囲碁で脳が強く活性化している」と指摘している。

 囲碁・将棋のソフト開発を20年以上手がけているフリープログラマー、山下宏さん(40)は「数学的には囲碁は将棋より難しい」と説明する。石や駒を盤上に置けるバリエーションの数は、チェスが10の47乗、将棋が69乗なのに対し、囲碁は171乗と桁違い。吉原棋士が言う通り、確かに囲碁はルールがシンプルで覚えて一応遊べるまでの手間はかからないが、その後が奥が深い。なかなか上達しないので有段者になる前に頓挫したり、高校や大学進学で碁から離れてしまうことも少なくない。仲間内の勝ったり負けたりや時間つぶしのネット碁程度にとどまって囲碁マーケットの拡大にはつながらないケースも多い。このあたりが囲碁界の次の課題だろう。

 ところで私事ながら、馬齢を重ねた亜Qにとって囲碁は「絶望」と「あきらめ」ばかり教えてくれるような気がする。指導碁でごくごくたまにプロ棋士から褒められたりするとすぐに舞い上がり、時・所をわきまえずエラソーなことをまくし立てる癖がある亜Qを、賢明なる読者諸兄は時々遠くから叱って欲しい。

亜Q

(2012.6.14)


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