2009ファンフェスタin箱根(下)

 わたしの最終局で、ある問題が起こった。わたしの黒番である。
 局面は覚えていないので、判りやすく似たような例図を作ってみた。図は異なるが趣旨は変わっていないはずだ。盤面は40目程度黒が勝っている。

 ここまできてわたしは声をかけた。
謫「終わりですね」
白「まだ終わっていない」
謫「ではパスします」
 白はAに打った。意味のない手だ。もしここに手があったとしても「終わりですね」と黒が声をかけて白が同意してしまえば、黒は何か手に気がついても、それ以上は打てないところ。
 さらにパスすると白はBと打つ。白の意を察して、黒C・白D・黒E・白Fと打つ。
再び「終わりですね」と声をかけた。
白は無言。
謫「どうします。まだあるのでしたら、わたしはパスします」
白「ルールによって交互に打つことになっている。パスはおかしい」
謫「わたしの方は終わっているので」
白「ダメが一つある。まだ終わっていない。交互に打つことがルールによって決まっている。先生を呼んできます」
 そういわれて、わたしは下辺にダメがあることに気がついた。ここはどちらが埋めてもいいところ。わたしがパスしたのなら、白が打てばいい。
 なんと倉橋正行九段を呼んできて裁定をして貰うことになった。
白「ここで黒がパスしたのはルール違反では」
倉「これは正式な手合いですか」
謫「そうです」
 プロの言葉によって、気がつかない手に気がつくことがあるので、倉橋九段はそのことを確認した。
謫「ダメに気がつかないでパスしたのですが」
倉「パスはしてもかまわないですよ。どうしました」
白「まだダメが空いています」
倉「白は手があると思えば続けて打てばいいんです。その前にどちらか『終わりですね』と言わなかったんですか」
謫「わたしが言いましたが、白さんは同意しなかったので、わたしはパスしました」
白「わたしもパスしました」
謫「双方がパスしたら終わりですよ」
 倉橋九段も同意して帰ろうとするが、白は納得しない。
謫「倉橋さん。結論をはっきり言って下さい。『ダメがあるのにパスしたのでルール違反で黒負け』というなら、そう裁定してけっこうです」 
倉「問題ない。気がついた方がダメを詰めたら、このことは終わりです」
 たとえば白がダメを詰めて、黒は終局宣言する。そのあと白はどこかに打ちたかったら打てばいい。終局にするのは白の権利。

 今回は双方とも10分程度残っていた。もし時間切れ寸前のときなら、とにかくパスして、時計を叩くことになったか。双方がパスすれば時計を止める。
 ルールによって交互に打たねばならないというが、これは打つ方の権利であって義務ではないだろう。
 打たねばならないなら、極論を言えば白が打ってダメのなくなった時点で、終局に同意しないとき黒はどこかに打たねばならないのか。もちろんそうなると、黒も再開を言い、白にも一手打たせることになる。そうして延々とこの先130手も続くことになってしまう。
 倉橋さんは「こんなトラブルは初めてです。とにかく皆を待たせているので」と帰って行った。

 普通は最初の「終わりですね」で同意して対局の停止となり、時計を止める。ダメを詰め死活を確認し、必要なら手入れをし終局となる。そして地を数えることになる。交互にダメを詰めるのはトラブル防止のため。
 わたしがパスを宣言したのは、「終わりですね」に相手が同意しなかったから。まだ対局中であり、相手の手番で続くことになる。つまり「終わりですね」はパスを意味する。だから「パス」と言っても意味は同じ。
「終わりですね」に同意しないと、まだ手があることを教えるようなもの。「パス」ならば、相手は続けて打ちやすい。
 白さんがプロの終局図(正しくは対局の停止という)を見たことがあれば、ダメの空いたまま終局(正しくは対局の停止)することに納得できるはず。
 ルール解釈の問題であって時間狙いでなかったし、盤面は40目ほど差があるので冷静に対処することができた。
 わたしも数十年に及ぶ囲碁生活で初めての不思議な経験だった。

参考:日本囲碁規約逐条解説

第九条−1(終局)
一方が着手を放棄し、次いで相手方も放棄した時点で、「対局の停止」となる。

第九条−2
対局の停止後、双方が石の死活及び地を確認し、合意することにより対局は終了する。これを「終局」という。

第九条−3
対局の停止後、一方が対局の再開を要請した場合は、相手方は先着する権利を有し、これに応じなければならない。

謫仙(たくせん)

(2009.11.7)


もどる