「花は盛り」?

 天高く馬肥ゆる秋たけなわに、見てはならぬものを見てしまった。
風呂場の鏡に映る突き出た腹。遺憾ながら、持ち主は私に違いない。
“花の色は移りにけりな” “ふりゆくものはわが身なりけり”―。
こんな時に、精一杯気取ってはみても、何か空しい、なぜか哀しい。
そう言えばわが愛娘は、私の喫煙を嫌って「老臭」と呼んでいたぞ。
花は枯れ腹膨れて老醜の始まり。いつしか私は自虐に喜びを見出す。

 落ち込んだ時、次の一手はかささぎさん譲りの気分転換しかない。
老いてなお、進化するものがある。それが、至高の知的文化「囲碁」。
70歳過ぎて「なお進化している」と豪語したのはシューコー老大人。
ゴ・セーゲン老師は傘寿を過ぎて「21世紀の布石」を提唱している。
碁の最もすばらしい点は、この年齢超越にこそあったのではないか。

 考えてみれば、囲碁ほど年齢・性差の壁がないゲームはあるまい。
シューコーは3年前、有望な若手ユータに圧勝の勢いを見せ付けた。
(但し、立会人宮本直樹九段が100手ほどで絶妙の打ち掛け処理)。
ゴ・セーゲンとともに、今なおリッセーやヨタロー名人を指導する。
フツーの九段・石井邦生は世界最強のイ・チャンホを60代で破った。
因みに60歳以上の日本棋院棋士20人の今年の戦績は168勝166敗。
傘寿目前の岩田達明15勝5敗以下、堂々たる勝ち越し(10月現在)。

 ところで勝負の世界で、プレイヤーの限界年齢はどの程度だろう。
相撲は30、野球は40、息が長いゴルフでも50になればシニア入り。
碁と比較される将棋でも、還暦過ぎて頑張ったのは大山康晴ぐらい。
日本の囲碁棋士ほど長持ちするプレイヤーは世界でも珍しいのでは?
アマの世界はより顕著。平田、菊池、原田、西村らは今なおトップ。
千寿会の猛女、N.Oのオバチャマは今月の女流アマ戦で見事優勝!
還暦をとうに過ぎて、初代女流本因坊以来何十回目の栄冠だろうか。
そろそろ傘寿の千寿姉弟の猛父も、下手いじめはさらに苛烈の一途。
私だって千寿会に参加以来、前年比アップを続けているではないか。

 そう言えば、韓国や中国の棋士は盛りの期間が比較的短いようだ。
ゴ・セーゲン、リンカイホーの例があるから、民族の違いではない。
むしろ国の環境や文化の歴史が関係するかも。何せ日本は老人大国。
これが事実なら、国際棋戦の勝負に一喜一憂するのは愚かしくなる。

 「花は盛りを、月は隈なく満ちたるをのみ愛でるべきだろうか」。
この日本古来の感性は、碁において最も的確に当てはまるようだ。
この際、シニア世界戦を開催したい。国際戦で勝てないからではない。
碁、人間のすばらしさを世界中で共感するための人間賛歌のイベント。
清貧・中野孝次はU20杯を創設した。生保会社も企画してはどうか。
ライブドアでも楽天でも新興企業が名乗りを上げれば絶対男を上げる。

 そしてもう一つ、シニア世界選手権者が無差別王者と対決するのだ。
勝負となれば無差別級王者の方に分があるだろうが、碁の内容はどうか。
個人的な価値観だが、チョーウはヨタロー名人の碁をまだ超えていない。
大台を迎えたチーママやおじいちゃんになったシャトルの活躍も見もの。
無差別級を制してさらにシニアでも活躍する。そんな夢を叶えて欲しい。

亜Q

(2004.10.20)


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