新公益法人の初仕事

 4月から公益法人に装いを改めた絶妙なタイミングで、新生日本棋院が「大震災からの復興支援」という初仕事に直面している。もうすぐ90年にもなろうという日本棋院の歴史の中で、おそらく最も大きく困難な仕事。まさに天から与えられた試練かもしれない。若手の棋士が音頭をとって東京や関西でチャリティー碁会が開催されたり、中堅クラスでも藤沢一就八段らが義援募金のための指導碁会を開くなど、個人・グループのレベルでは既に活発な動きが始まっている中で、真打ちとして登場した新生日本棋院がどんな活動を展開していくのだろう。
 碁界の総本山、日本棋院が直面する試練はザル碁アマにも他人事ではない。私案を思いつくまま恥を忍んでご披露させていただこう。何もわからない門外漢のたわごとだから、規約外れや資金、人材の面で無理なもの、とっくに議論済みで廃案になったものばかりかもしれないけれど、ひょっとすると名案を引き出す呼び水、あるいは議論を深めるたたき台ぐらいにはなるかもしれない。

1.まずは“大連立”

 「復興」のための最善の着手を下すには、日本棋院、関西棋院といった垣根は無用、むしろ邪魔な存在。万難を排してすぐにでも統一するべきではないか。その前提に日本・関西棋院団体戦を仕掛けるのも面白い。交流関係が深い中国、韓国、台湾をはじめ、欧米、南米などの関係機関にも可能な限り協力を仰ぎたい。中韓台のトップ棋士とそれを三星杯で破ったウックン、敬吾、井山らの日本のトップ棋士が対抗戦を組んだり、新設されたマスターズカップにアジアのビッグネームを招いて復興の旗印の下で闘えば義援金がずいぶん集まるだろう。さらに重要なのは日本将棋連盟とのコラボレーション。被災者に多様な選択肢を提供して支援の輪を広げるには将棋連盟その他の知的ゲーム組織と足並みをそろえることが不可欠だ。

2.有志アマを含めて全員野球

 「復興支援」が最大の目標であることは確かでも、棋院にできることは、碁を打つ、見せる、解説する、教えるという「平常時」の活動に他ならない。例えば、平常時の各種棋戦の日程や方法を変えたらおそらく収拾がつかないほどの混乱に陥るから、仕組みや頻度などを少し手直しして、「復興支援」という非常時の対応を無理がない範囲でどう組み込んでいくかが知恵の出しどころ。公開対局を多くしたり、休日や夜間の手合いをネットで中継するなど、多少の失敗を恐れずに実行して義援金をあの手この手でがっぽり吸い上げる(楽観過ぎるかな?)。もちろんそれには、棋士、インストラクター、地方指導員、事務局を含む関係スタッフの一人ひとりの献身に頼るだけでは手が回りそうもないから、元気な高齢者や学生などアマ有志の助力も遠慮なく使うべきだ。こうした貢献には、プロ・アマを問わず、何らかの形で貢献ポイントを付与するといった動機付けも必要かもしれない。

3.『ヒカルの碁』を配って被災者に碁を教えよう

 支援策は、被災地や避難所を回って被災者を元気付ける直接法と、被害に遭わなかったり少なかった人からの義援金や奉仕活動を募る間接法に大別される。後者については既に自発的な活動がスタートしているから、前者の具体策を愚考する。例えば集団生活を強いられる被災者と避難所の数は全国で多数に上るが、碁の愛好者は少数だろう。仮に将棋連盟とタッグを組んで公開対局などのイベントを開いてもどれだけ効果があるかは疑問だ。こうした一過性の試みより、むしろ継続性や発展性がある教育に力を入れる絶好のチャンス。集団生活を送る人には囲碁将棋は最良の友になる可能性がある。入門書や初級向け手筋や詰め碁解説、さらに9路盤、4路盤を含めた盤石の提供。アマから古書を提供してもらったり、教師役を務めてもらう手もありそうだ。

 そこで期待されるのが、古今の囲碁界最大のベストセラー『ヒカルの碁』。規模に応じて全巻を寄付して被災者の方に読んでいただく。年齢を超えて読まれた名作だから、支援が引き金になって再びブームを巻き起こす可能性もある。碁や将棋は1度覚えればかなりの比率で定着し、周囲に仲間がいれば放っておいても持続、増殖していく。今こそ、『ヒカルの碁』を大量に増刷してほしい。もちろん、iPadのような電子媒体を利用した“i Go Books”の出番もあるだろう。

亜Q

(2011.4.3)


もどる