昭和は遠くなりにけり

常石隆志二段

「8月3日の千寿会に「平成三人衆」が登場した。プロ棋士の常石隆志二段、院生修行をされ関西総本部のプロ試験を受けられた村崎さん、そして新鋭作曲家の村田真生さん。碁を覚えたきっかけは、三人とも申し合わせたように「ヒカルの碁」。何の予備知識もなく10歳を過ぎてから始めても、10年もあればこんなに強くなるのだ。どうでもいいけれど参考までに私事に触れれば、ザル碁の父親の盤側でいつの間にか碁を覚えたのがおそらく六歳前後。申し分のないスタートを切ったのに、半世紀も経ってこの体たらく(棋力はご想像に任せます)。神様が不公平だと今さら愚痴る気持ちはないが、モーツァルトを嫉妬したサリエリの気持ちはよくわかる。

常石二段は千寿先生を筆頭とする小林ファミリーの長兄、小林孝之準棋士のお弟子さん。いくつものアマタイトルに輝いた実力そのままに碁聖戦をはじめ各棋戦で活躍、ついでに15kgの減量にも成功された。この日はプロ入り後2年余り封印されていたアマ相手の指導碁デビュー。本ページでお馴染みのかささぎさん、梵天丸さん、そしてプロの大石を何度もほふった強豪のJさん、Yさんらを軒並み討ち死にさせた後、一番槍・二番槍の金星を無印の二人(私と元アイドル歌手のペケたん)にプレゼントしてくれた。

村崎さんは、10年前に夢破れてチェコに帰郷されたオンドラ君や不思議な詰め碁づくりに情熱を燃やした内田知見さん、東北大学進学後、IT技術者として日本で活躍されているバリー君、やはり大学の理科系に進学した魚返・真殿両君らとともに時折千寿会に顔を出される院生修行者の一人。幼少時に千寿会で腕を磨かれた奥田あや三段が女流タイトルに挑戦したりNHK杯でお馴染みになるなど脚光を浴びる半面、棋士への道から離れた彼らとの交流も、ザル碁アマの端くれの私は大切にしたいと思う。

もう一人の村田さんは、ミュージカル俳優・アーティスト活動から作曲家へと転向されてクラシックテイストから電子音楽までさまざまな楽曲を創作される新鋭だが、いつの間にか碁も強くなられた。この彼が8月21日、新宿ミノトール2で「Masao Murata 3rd Live」を開く。真夏の夜、愛棋家ならぜひとも注目しておきたい若き天才の作品を堪能するのも一興だろう。

参加者の最長・最若年齢差が半世紀以上にも広がる千寿会後の飲み会の話題は碁だけにとどまらない。例えば、最近山口県で起きた連続殺人事件と絡んで「八つ墓村」の記憶でおじさん、おばはんたちが盛り上がる。ところが、この日の主役、平成三人衆には岡山県出身の村田さんも含めて何のことかわからない。そこで矢継ぎ早に質問が三人に飛ぶ。「ウエストサイド物語を知っているか」(正解1人)、「ミュージカル王様と私の主演男優は?」(正解ゼロ)、「作曲家が犯人の推理小説は?」(正解1人)。前日に23歳になられたばかりの村田さんはさすがに「22歳の別れを歌った伊勢正三」をご存知だったが、こんなことでは心もとない。

俳人は降る雪に心を通わせ、「明治は遠くなりにけり」と詠んだ。昭和の三羽烏とうたわれた変幻・山部(石心・梶原と共に、誰もが認める芸を持ちながらタイトルとは縁が薄かった)は、勝ち星もタイトルも独り占めする勢いを見せ始めた好敵手に対して「坂田は遠くなりにけり」と名言を残した。そして今、亜Qは「昭和は遠くなりにけり」と痛感する。碁では逆立ちしても三人衆に敵わないけれど、この際「昭和入門」講座でも開こうかな。

亜Q

(2013.8.12)


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