就位式のオープン化を

碁界最大タイトルの棋聖位を山下敬吾七段が奪取しました。棋聖はシューコーさん以下これまで5人しかいない(その一人が覚九段、チクン大棋士との3年連続頂上決戦はすごかった!)。史上最年少でこの栄冠を手にしたケーゴさんは今頃、就任挨拶の言葉を考えているかもしれません。

関西棋院の有志棋士が運営する囲碁サイト「関西棋院的掲示板」では結城九段の鶴聖タイトル獲得を祝うファンの声が集まっていました。もちろん、敗者を応援されて無念を噛み締めている方も多いでしょうが、勝負の世界ですからここは勝者を称えたい。ファンはこの機会に日ごろの思いのたけを晴らせるのですから。

就位式の主役は、もちろんタイトル獲得(防衛)者であり、その棋士のファンでしょう。タイトル者に敗れたライバル棋士の方々や友人、主催者側関係者、棋院関係者はいわば脇役・引き立て役であり、ゲストではないホストの立場。ところがこの就位式、大多数の出席者の顔ぶれがあらかじめ決まっている内輪の慰労会になってはいませんか?

私もこれまで伝手を頼って何度か参加したことがありますが、顔見知り同士がワイワイ盛り上がっていたり、関係者同士が久闊を叙してそれぞれの話題にのめり込んでいたり、閉ざされた場にぽつんと取り残された感じがしたものです(それでも顔見知りの棋士に近寄って話を聞いたり質問したりしましたが)。主催者や棋院関係者が取引先や個人的な知り合いに招待券をばらまいて、場外の一般ファンには限られた席しか用意しないからでしょう。

関係者が多ければ就位式は惰性・きれいごとのセレモニーに陥りやすい。ひと工夫もふた工夫もして一般のファンに聞かせようというサービス精神は薄れがちになります。この際、一般ファンへの門戸をもっと広げていただけませんか。会場を広げ、式の周知や申し込み方法を改善して参加しやすくしたり、あらかじめ選定した数人の方に「3分間祝言」や、例えば音楽家や詩人のファンがいれば短いお祝い演奏や詩を披露してもらったりーー。準備は少々手間取りますが、普段はなかなか伝わりにくい棋士とファンとのコミュニケーションの格好の場になるのではないでしょうか。

棋士は棋道を究める研究者、1目・半目にしのぎを削る勝負師、そしてアマを指導し、有望な後継者を発掘する教育者の顔を持つと同時に、ファンの夢を満たすスター、語弊を恐れずに言えばエンタテイナーでもあります。関係者向けの当たり障りのない挨拶や祝言の代わりに、天才ならではの思いがこもったありがとうメッセージや常日頃考えている個性的な主張を開陳してほしい。敗者が「負けた気はしない、今度はリベンするからご期待を」などと決意表明したり、無名の若手が「一年後を見ていてくれ」と思い切り風呂敷を広げて堂々と新たなファン獲得に乗り出すのもプロらしくていいものです。

こうした就位式の状況は一般紙ではごく小さくしか扱われませんが、ファンの参加が増えて棋士や棋院側から重要なメッセージが発信されるようになれば、もう少し大きな記事に取り上げられる可能性もあります。囲碁サイトなどでも「今回の就位式は良かった」とか、「○○に関するメッセージは棋院改革の姿勢がよく表れていた」などと反響が盛り上がると思います。

亜Q

(2003.3.1)


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