石を直す人

 何でも手軽なものから手を着ける安易な性分は学生時代に形成されたらしい。だから「週刊碁」で真っ先に読む(見る?)のは『ザ・直感』と『すごもり君』。『ザ・直感』に最初に目を通すのは、うっかり答えを先に見てしまわないように。『すごもりくん』はほかのページに目を通していても、気になってつい開いてしまう。

 人間観察の達人である私はざっと10年来の愛読者。すごもり君の性格は知悉している。そう、某サイトの名物管理人、愛すべき我が後輩M師匠に何と似ていることか!そして作者の藤井レオ氏は何とまた、アマ棋客の心理に通暁されていることか!

 登場人物のキャラクターがまた賑やか。身の回りにいるわいるわ。

 突如“覚流”に目覚めて、すごもり君の着手にいちいち吐き気を催す「オエオエおじさん」。晴れて五段に昇段、腕を羽ばたかせて犬や木にまで告げ回る「五段ですよ〜おぢさん」。碁敵のすごもりくんに恋心を抱いているように待ちかねている星目商事会長。周囲が見ていられないほどのヘボ碁打ちなのに、仕事となると達人の技を見せ付ける。ゴルフ焼けした黒い顔で碁会所浸り。暇に任せて圧倒的な強さを見せるマンションオーナー。すごもり君羨望の的でもある。清貧を地でいく高潔な人柄のはずなのに、碁になると強欲な貪り根性を見せるヤセ髭氏。かわいい顔して碁となるとまるで般若。すごもり君の石を次々に殺し回る偽カオル……。

 近作では「石を直す人」が出色。相手の着手を神経質にきちんと置き直す癖のある人。これをいちいちやられたすごもり君、「ボクの神経がそんなに曲がっているの〜?」とイライラを募らせる。そしてついに、天井に向かって「うおおおぉ」と欲求不満を爆発させる。しかし石を直す人はまるで気がつかない。「どしたの?」「どこか悪いの?」。

 実はこの癖が私にもある。しかし私は気配りの人だから、直す時はいつもためらう。神経質な奴だとは思われないか、すごもり君のように相手の気分を害さないかーー。だからまずは相手が自分で直してくれるのを待つ。でもほとんどの場合、当てが外れる。全然その気がなさそうなら仕方がない。とりあえず我慢してそのまま続ける。しかしどうにも気持ちが悪くていたたまれない。以前の着手も含めて相手の隙を見てさっと直す。その際、自分の石もついでにいじって相手の石を咎めていないように見せるのが肝要。

 石をずらして置く癖のある人には二つのタイプがある。石の形や流れを重視して内容一直線、石の位置には無頓着。このタイプは大体強い。逆に、自分が打ちたい方向をあからさまに露呈する人も少なくない。2間に飛びたいが切られる恐れがあるから1間トビ、頭を跳ねたいがさすがに無理そうだからノビで我慢。一路広げたいが侵略されそう、で控えるーーそんなケースがほとんど。石は必ず行きたい方向にずれる。このタイプで強い人は見たことがない。

 私のように観察している人は少なくないはず。だから念力を使う打ち手は石が行きたい逆の方にずらすことをオススメしたい。

亜Q

(2003.11.15)


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