サトルの告白−−女流ペア碁パートナーを逆指名されたら

「彼の死を無駄にはさせられません」。 せめての救いは、今最も辛い立場にある千寿先生の健気さ。 そう、いつまでも滅入っていても仕方がないーー。

そんな時、局面を変えてくれるのは気分転換の天才O氏。 リコー杯ペア碁戦の決勝を迎えてまたまた奇天烈なことを言い出した。 「女流からの逆指名でパートナーを選ばせたらどうだろう!」

当然ながら、相手の男性は誰を見ても錚錚たる顔ぶれ。 大会の席上での女流の感想はいつも決まっている。 「パートナーの足を引っ張らないように」。 決勝に進出したイノリンもミカ姐も偽りの微笑に心を隠す。 O氏はここに、切ないほどの女の真心を感じるというのだ。 浅学非才な私は、彼ほどのフェミニストを知らない。

確かに、男性棋士は一流になればなるほどわがままだ。 いくら紳士を気取っていても、勝負師の血は争えない。 女流の変な手(もちろん男性側の独善)を見た途端に正体を露呈する。

絶句してのけぞるイッシー、髪の毛を逆立てるチクン大棋士、 思わず口も手も出そうになるタケミヤ、オータケ、オーメン、 口をとがらせ腕を組みプイと横向く昔の好青年コーイチ、 すねて扇子を噛むヨタロー名人とリッセーのマザコンコンビ、 関西の旗手ユーキ青年は逆に眠ったように無表情になる。

あてがい扶持のパートナーを称える女流の真意は別のところにある。 「男性棋士に気を使わず、好きなように打ちたい!」 ならば、人気投票すればどうなるか。O氏は大胆な予想を立てた。

大本命は、ぎらぎらした欲望を感じさせない温かいパパ(好々爺!)。 リン、ケンセー両大人、クドー理事、関西のカメ仙人あたりが代表例。 ハネパパ、朴訥タカギ、両クニオ(石井・上村)らもこの範疇に入る。

ファザコンを嫌悪する女流には、素直な(かつ可愛い)弟分が最適。 キミオ、両中野(ヒロナリ・ヤスヒロ)、タカオ、そしてピーチ(嗚呼、合掌)。 ただし、今売出し中の実力派若者や力自慢は敬遠される可能性が高い。 注目を集めているケーゴ、チョーウ、ナオキらは女流上位になりにくい。 ガチンコのアッシー、スジュン、ジローらも御しにくい暴れ馬。 アワジ、ゴロー、イシダアキラら24年組の中年寄もやりにくそう。

その点、どっちつかずの中年グループは、女流から見れば無難な選択。 カタオカ、ヤマシロ、実績はともかくイシクラ、カオル吉岡あたり。

ライバルの女流棋士を身内にする男性は人柄とは無縁に敬遠される。 アベチャン、ヨイカゲン、岡田、青木、ハン、ミムラら。 ならばチーママを姉に持つ健二、覚兄弟の人気は落ちるのか。

新宿西口小さなスナック。大胆にもO氏は二人にインタビューを試みた。 生まれつき謙虚な健二さんは案の定、「いやぁ、ボクなんてダメダメ」。 意外だったのは、人気ナンバー1の座を争いそうな覚さんの告白。 それまで素人手品を無邪気に喜んでいたのに、急に深刻な表情に。 「ボクは全然もてないことを骨の髄から知っているのです」。 O氏と私は「うっそーぉ」とはやし立てるが彼の真顔は変わらない。 「変に理屈っぽいし、カッコつけたがりやだし、重ったるいしーー」。 「碁を知っている人がボクを受け入れてくれるのは言わば身びいき」。 「知らない人から見れば武田鉄也のほうがはるかにもてるでしょう」。 うーーむ。本人の口から聞けばそんな気がしないでもない。 ザル碁のO氏と私から見れば神様のような覚さん、その彼が悩む。 人間って素晴らしい。何だか、我々でももてそうな気がしてきた。

亜Q

(2003.1.26)


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