東日本大震災チャリティー碁会~その2

好天に恵まれた3月26日、東京・新橋の航空会館で開かれた若手棋士たちによる「東日本大震災チャリティー碁会」に、たくせんさんと共に参加した。この碁会は、若い人への囲碁普及を目指すIGO AMIGO幹事を務める万波佳奈、王唯任両棋士を中心に発案された緊急特別イベント。有志棋士、アミーゴ会員のボランティア、会場提供者=(財)日本航空協会らを募ってわずか4日間で開催にこぎつけたらしい。碁盤をアミーゴから調達した即席会場の案内や名札類はすべて手作り。一般への事前告知は関係機関や棋士のブログに限られたが、会場には160人のものアマチュア有志が参加、公開対局には立ち見客も出る大盛況だった。

開場30分前の11時半に会場に入ると、河野臨元天元が新著「序盤の手筋」を20冊ほど机に置いて揮毫の真っ最中。相変わらず律儀な楷書で『心』―河野臨 2011.3.26 と懸命に書き続けている。オトナが何か熱心に作業しているとつい邪魔をしたくなる性格を子供の頃から育んできた私はもちろん割って入る。「臨先生に最初に声をかけたのはもう6年以上も前ですが、その直後に先生は初の天元位を獲られました」と話しかけると、思わず臨さんはニッコリ。この日のメインイベント早碁対局で闘う山下本因坊から奪取した17年の天元戦を思い出されたのだろうか。私はいの一番に同書を購入した。

山下本因坊もサイン入りの著書と本因坊就任式で配った扇子を大きな紙袋に大量に携えて早めに登場。受付では開催の立役者、万波佳奈・奈穂姉妹らが手伝っていた。そんな中で私は王唯任さんに、奥様(日本人の囲碁インストラクター)と同じB型の女流棋士(本欄の「テンネン系棋士」をご覧ください)についてウンチクを披露すると、唯任さんはつくづく思い当たるような表情で聞き入ってくれた。

長島梢恵さん(ご存知、向井三姉妹の次女)とは、さだまさしさんの『雨宿り』を愛唱しているとの話を聞いて以来の我が若き女友達。相変わらず人懐こい笑顔を見せて、姉の三村香織さんとともに子育て真っ最中でいつも家族ぐるみで食事を共にしていること、妹のチアキ嬢は昨日の女流名人戦第3局で惜しくもシェ・イーミン名人に敗れたこと、義兄の智保九段が子供の囲碁教育に熱心なことなどを話してくれた。ところで私の観察では、智保九段は公私共にカオリ効果(もちろん、大いに好ましい影響)をずいぶん受けたような気がする。

奥田あやちゃんは千寿会とは最も縁の深い棋士の一人。小学校低学年の頃におじいさんに連れられて千寿師匠やハンス・ピーチ先輩に打ってもらっていた。「祖父が先生の隣に座って棋譜を採るのがとてもプレッシャーだった」そうだが、そのおじいさんは昨年亡くなられた。緑星学園を経てプロ入りを果たし、二段に昇段、さらに女流タイトルリーグ入りなどの晴れ姿を喜んでおられたという。となれば残る恩返しは女流タイトル獲得。シェ・イーミン女流三冠にはこれまで結構いい勝負を挑んでいるらしい。「でもシェさんはタイトル戦無敗ですから」とヘコタレ口を利くので、「あやちゃんだって無敗じゃないか」と返すと、「私はタイトル戦に出たことがないから当たり前だけど、同じと言えば同じですね」と、その気になってくれたようだ。

指導碁の抽選で当たった先生は、ポスト四天王・井山・結城・坂井・河野を狙うホープの一人三谷七段。「コンタクトレンズに代えてずいぶん男前が上がったのぅ」などと感心するうちに終盤に数子を取り込まれてきっちり負かされたけれど、6人相手の多面打ちの忙中に、小ゲイマと高2間に両ガカリされた星の黒石を2子にして捨てて外回りした策戦を褒めてもらえた。チャリティーに参加された15人の棋士の中でこれまで面識がなかったもう一人、望月七段とは喫煙所で1対1の対話の機会を得た。各棋戦で満遍なく活躍される望月青年はこの日参加されたプロ棋士の中で唯一の喫煙者。タバコと手合いの相性などを話し合ったオジサンを覚えてもらえただろうか。

公開対局の第1部は「安藤―中島」という夫婦対決。張豊猷七段の解説にコズエさんが聞き手を務めて盛り上げておられたが、指導碁を受けていた私には内容はわからない。そして第2部が「山下本因坊―河野元天元」という豪華対局。黒番の臨さんが初手右上隅星に置くと、白番の本因坊は左下隅に5-五。黒3は右下隅下辺寄りに大高目。白4は左上隅上辺寄りに目ハズシとにぎやかな布石。碁は早めに下辺でコウ仕掛けを断行した黒が序盤に1本取ったが、白は周囲に築いた厚みを背景に黒の大石を捕獲して40目強の地を確定、優位に立ったらしい。しかし黒は左辺の白模様に必死の殴り込みを敢行して見事生還。持ち時間は1手20秒、考慮時間1分×3回と設定されたが、大きなコウ争いを繰り返す手に汗握る展開に終盤には1手10秒に変更された。解説役の松本、三谷七段の形勢判断がしばしば食い違う大熱戦の結果は大碁の細碁、白の1目半勝ちに終わった。こんな面白い碁を見せてくれた両棋士、そして時計と記録係を務めたあやちゃんもお疲れ様でした。

亜Q

(2011.3.28)


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