女優に碁を教えるなら

大学囲碁部の女性を無理やり指導した千寿会の厚顔おじさんO氏、このところやたらと 女性に碁を教える効用を説き始めた。私との真剣対局の最中にも「碁界の将来のためには やはり女性に教えるのが一番、子供も自然に覚えるようになる」とうるさくてかなわない。 「もっとも、碁を教えると言っても誰でもいいわけではない。それなりの雰囲気を持った 女性でなくてはならない、うんうん」などと小生意気なことを話しながら、 盤上の着手はほとんどノータイム。「対局中だぞ。少しは真面目に考えろよ」と言った切り、 私は盤上に目を奪われてほとんど上の空。

この男、どこまで能天気なのか。調子に乗って「女優で選んでみよう」と言い出した。 それも映画音痴の私にもわかりそうな往年の大女優に限るとはご親切なことで涙が出る。 (はいはい、勝手に妄想を広げていなさい、この間に私は地模様をどんどん広げましょう)。 「ソフィア・ローレンとかジーナ・ロロブリジーダといったイタリア系はちょっと違和感。 ブリジッド・バルドー、マリリン・モンロー、エリザベス・テーラー、ジェーン・フォンダも イメージが違う。やはりジョディー・フォスター、フェイ・ダナウエー、 キャンディス・バーゲン、キャサリン・ロスあたり。そう、知性派が望ましい」 (そんなこと絶対ありえない、それに一人で相槌を打つな!)。 何やら気分を良くしてこの男、普段の彼ではありえない手の伸びよう。 調子が狂った私は迷ってばかり。思考は堂々巡りして着点がさっぱり浮かばない。

そんな私のイライラを知ってか知らずか、「本命はやはり、オードリー・ヘップバーンと イングリッド・バーグマンだ!碁の真髄を口移しに教えて進ぜよう」 (元々いやらしい顔つきがなおさらいやらしくなっている。あのねぇ、 石をつまむ時に小指を立てるのはやめなさいって)。とは言え、私だってオードリーや バーグマンは好みのタイプだ。いつしか私も「ローレン・バコール、ジャンヌ・モロー、 いや、何と言ってもフランソワ―ズ・アルヌール!"ヘッドライト"でジャン・ギャバンと競演、 "過去を持つ愛情"では主題歌のポルトガル民謡(ファド)が全世界でヒットした、 孤独な女スパイを演じた"女猫"は隠した機密文書を太ももから引っ張り出すたびに ぞくぞくした」と、あらんかぎ限りの乏しい記憶を引っ張り出していた。

ところで棋勢は相変わらず私の苦戦。他意はない。碁盤がジェーン・マンスフィールドの 豊満な肉体に見えてきたのが原因だろう。そう、断じて実力ではない!!

K

(2002.1.19)


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