耳赤・恥の一手 亜Q-聖健 パート2@

 9月はじめの千寿会に久しぶりに顔を出された“東の貴公子”こと高梨聖健八段に教えていただいた。寄る年波のせいで時間の感覚がおぼつかない私に、30代最後の秋を迎える貴公子は「亜Qさんと打ってから1年半以上も経ちますね」と話しかけてくれる(2年前に打った碁が記録にあるので、ご参考までに)。ザル碁アマとの指導碁をプロ棋士が覚えてくれているなんて——感動の涙を年の功で押し隠し、私は盤上に4子、自由置き碁で打たせていただくことにした。隣には我が良き碁敵かささぎさんが3子、会友の麹町夫人えっちゃんの愛娘で小学校1年生から中学校1年生まで緑星学園で大沢奈留美さんらと切磋琢磨し、高校時代に文部科学大臣杯全国高校選手権団体戦に副将として2年連続して出場して全勝の成績を挙げ、全国優勝経験も持つ彩香ちゃんが4子。3面打ちの指導碁だ。

 プロ棋士もアマ強豪も例外なく飛びっきりの負けず嫌いだが、特に貴公子は年配者、女性、子供を問わず、アマ相手でもめったに勝たせてくれない(と、チーママも認めておられました)。それもアマが嫌がる手を連発して負かしに来るのではなく、プロ同士で打つような「本手」を打ち進めて、しかも勝ちは譲らない(初対面のころ、貴公子はこんな風[]に話していました)。私のささやかな体験では、このたび本因坊リーグに復権された小林覚元棋聖や中部の実力者・中根直行八段のように、アマに勝ちを譲ることに喜びを見出されている棋士もおられるのだが、このあたりは「棋風の違い」としか言いようがない。

 実は私は、プロ・アマを含めて自分なりに最もいい碁を打てる相手は貴公子だと勝手に思い込んでいる。例えばザル碁アマ同士で私が打つと、ほとんどの場合、一緒になってポカのオンパレードを展開する「漫才碁」、ベタ足で殴り合う「喧嘩碁」、相手の考え方を一切認めない「反発碁」、いかに相手にミスをさせるかを競い合う「詐欺碁」のいずれかになってしまう。常日頃から都合よく想定している「本来の自分」と比べ、棋力にしても品性においても1〜3子弱くなっていると自覚させられることが多い。ごくまれに波長の合う相手と出会い、勝敗は別として(と言うより、どうでもよくて)互いの棋力なりに納得がいく碁が打てると至福の気分を味わう。そのベストの相手として、よりによって貴公子を名指しするとは我ながらまことに僭越。皆様のあきれ顔が浮かぶが、ノーテンキな人間もいるものだと笑ってお赦しくだされ。

第一譜 (1-9)

 いつもの悪いくせで前置きが長くなった。このたびの耳赤対局は、星、小目、高目、目ハズシを組み合わせる我が愛用の4子局。星に置く定型置き碁は確かにバランスがいいだろうが、白の初手は(天元またはその周辺を除けば)どこに打っても同じ形が8通り生じ、流れが単純化してしまう。教える側もつまらないだろうし、教わる側もいろいろなバリエーションを学ぶ機会を自ら閉ざしてしまうような気がする。これまでのささやかな体験によると、白の初手は4子の置石の中で最も弱い(中央への発展性、全局への影響力に劣る)と見られる小目にかかるケースが圧倒的に多い(ざっと8割以上か)。貴公子は私との自由置き碁対局でこの置石に経験があり、その時は右下小目に1間高ガカリされた。それを意識してか、それとも最も手近だからか、知らん顔して左上目ハズシにオーソドックスに小目(3-四)に入ってこられた。

 黒2の第一感は置石を背景に4-五。アマ相手ならきっとこう打つ。左上で厚みを構築して上辺を豊かな模様にするのは有力だと思うが、貴公子相手にこのカケは既に打っている。模様はその後ガラガラにされて負かされたから、リベンジを試みるのも一局だったかもしれないが、せっかくの指導碁だからなるべく新しいことをやりたい。少ない得意戦法に頼るより、自信はなくても融通無碍な自在性に挑んだ方が面白いし、きっと自分のためになるだろう。あらかじめいくつかの戦術を練っておき、「こうなればいいな」となまじ期待すると、当てが外れることが多い、と貴公子も言っておられた。そこで4-六とやんわり挟んだ。以下、白7まで定石が進行して手を渡され、右下を小ゲイマシマリ(黒8)。

 と、白はいきなり左下への変則カカリで私の意表を突いた。左上と同様に内側からのカカリなら上を塗って局面を単純化できそうだが、そんなヤワなことはしてくれない。ここで早々と黒10を次の一手にしたいと思う。私はほぼノータイムでひょいと打ってしまったが、あまりよくなかったらしい。ぜひとも皆様のお考えをうかがわせてほしい。ついでながら、いかにも亜Qが打ちそうな「よくなかった手」も遠慮なく当ててください。

 この指導碁対局は千寿会の大盤解説に取り上げられた。聴講された方は覚えておられるだろうが、異説や疑問があれば敢えてご自身の考えを回答(できれば1手だけでなく、その後の考え方も含めて)の形で示していただきたい。もちろん、忘れた方はまったく新しい気分でどうぞ。早めに引き上げられた彩香ちゃん(&えっちゃん)、当日来られなかったyosihisaさん、たくせんさん、さらにM女やこもりん、歌がうまいM野さん、税理士のT崎さん、弁護士のI原さん、先日お来しいただいた世界碁さん(せっかくの機会だったのに、あまりお話ができなかったのがとても悔やまれます)、関西でご活躍中のまーべらすさん、最近ご無沙汰しているモンパパ、私が敬愛するずんどこ打法の遣い手アドさん(旧姓)、そしてたまたまこちらに訪れていただいた変人諸兄の皆様、どうぞ秋の夕べを、貴公子に健気に挑んだザル碁をツマにしていただければ幸いです。

亜Q

(2010.9.14)


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