シューコー先生の次の一手(9)解答編

ヤッシーがまだ女流タイトルに手が届かなかった独身時代、碁も人柄も心酔する「殺し屋」(故加藤正夫元名人・本因坊・名誉王座)の何から何まで真似して、手っ取り早く自らを高めようと一念発起した。ところが世の中は甘くない。棋力も人格もなかなか追いつけないうちに、殺し屋の口癖「ヘンチョーカトリセンコー」だけを真っ先に習得してしまった。それからのヤッシーは、友達の結婚式であれ、世話になった方の法事であれ、子供たちへの囲碁教室の場であれ、あるいは満員電車の中であれ、いつでもところかまわず「ヘンチョーカトリセンコー」が口からほとばしり出るようになった。

困り果てたヤッシーは某月某日、殺し屋を訪れて「先生に伝染された。責任を取ってほしい」と涙ぐみながら直訴した。殺し屋は若い女性の突撃にすっかりうろたえた。「ばってん、あれは確かコーイチ君が言い出したのではなかとか」とか「そ、そもそもボ、ボクの師匠がその手のギャグを得意技にしていたバイ」などと、激しくどもりつつ博多訛りを丸出しに弟弟子の小林光一名誉棋聖・名人や昭和の名棋士・木谷実氏に嫌疑をなすりつけようとしたらしい(参考)。

もっともこの話は、かささぎさんや関西の加奈美オバチャマあたりが例の早口カンサイ弁であちらこちらに触れ回った根拠のないウワサ話との見方もある(ひょっとすると、「妄想老人」への道を突き進む愚生だったかも知らんが、記憶が定かでない)のだが、いかにもありそうに思えるのがヤッシーたるゆえん。

なぜこんなトリビアな話が我が脳裏に浮かんできたのだろう。それは、「シューコー先生の次の一手」の常連回答者(ごく一部の方を除く)の皆様があまりにも「シンチョーカトリセンコー」だから。もちろん、「ココンテーシンチョー」やら「シンチョーシンチョール」やらと言い換えても別にかまいませんが。

しかしこれではいつまで経っても埒が明かない。実はこの問題、愚生がひと目で当ててしまった。もちろんヨミの裏づけはない。単なる山勘ですが、少なくともこの私が当たる以上、諸兄には「軽い問題」のはず。二、三日中に多数の正解が寄せられると踏みました。なのに一週間経ってもお二人からしか回答が出ない。冒頭に「軽い出題」と書いたのが悪かったか、梵天丸さんの回答をいただいてすぐ「ワテは当てたデ!」と自慢したのがまずかったのか。今回も深く反省しつつ、見切り発車で解答編に進ませていただきましょう。

参考図 定形に異議!

まずは、この形になった後の「常形」の変化をごらんください(参考図)。白1、黒2を交換し、白3、黒4、そして白aと上辺を生きるのがごく一般的らしい。しかしシューコー先生は「黒は墨の地を取り、中央の厚みも強大。白有利とは言えない」と「常形」に異議を唱えます。

正解1図 狙いが残る 正解2図 両方打つ

シューコー先生は、「次の一手は白1(11−四)ツケが最善」と確信されます。このツケは隅の白と関連が薄いように見えますが、「白の目的は上辺の黒地を大きく破ること。隅や上辺で生きることではない」というのがその論拠です。とは言っても、「白1は隅や上辺を捨てたわけではなく、もっと効果的に働かせている」(シューコー先生)。それを立証するのが正解図です。

黒が続いて2と下がれば(正解1図)、白3と切りカカエて、黒4カミトリ、白5アテツギ、黒6ヌキを決め、「そこで白7と備えれば左上の黒を攻める狙いが残る。この後、黒aなら白はbと中へ出て行く」(シューコー先生)。

正解2図のように黒2と出てくれば、白3とオサエ、黒4と左右を隔てられても白5と隅で生きて「白の有利な分かれ」。白は隅と上辺の両方を打ち、黒a、白b、黒cと白三子を取られても「白dに回ることができる」(いずれもシューコー先生)。

実戦図 中途で挫折

実戦は正解図1と同じく白1から黒4まで進みましたが、次の白5単ヌキが疑問。「黒6から黒10と先に攻め立てられ、封鎖された上辺を白13と生きても、今度は黒14と右辺を大きく攻められて不利になった」(シューコー先生)。

さて、ご回答いただいたお二方のご意見は、たくせんさんが上辺の11−二、梵天丸さんは右下に目を向けて17−十六以下を示されました。たくせんさんは第一感で黒が大々ゲイマに開いた急所の9−三に着目され、それをにらみながら右上からの白の一団をくつろげる策戦。梵天丸さんは真っ先にシューコー先生が「常形」とされた流れを想定された。しかしこのまま手を抜いても全部を取られるわけではないから「これでは問題にならん」として、敢えて右下に転じられた。もしかすると、出題文に「黒地を破れ」とのみ記して「上辺の」を省いたのが迷わせてしまったかも知れませんが、さすがは千寿会きっての深読みで知られる一端を覗かせてくれました。ただし本シリーズはあくまでもシューコー先生の考えに従うのが趣旨ですから、その意味で残念!勝負弱い愚生も賭け金をすべて失ってしまいました。

末筆ながら、管理人のかささぎさんにお願い。本題はこのあたりで一区切りしたいので、17日(土)夕刻をもって貴兄に送稿いたします。日曜日にご予定があるのは存じておりますが、なるべく早めにアップしていただき、送稿後にご回答いただいた方へ失礼になる可能性(「石音掲示板」などを通じてできる範囲で対応させていただきますが)を少なくしたいと存じます。いつも勝手な言い草で申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いいたします。

もう一つ、梵天丸さんへ。満を持してご用意いただいている「眼からうろこシリーズ」第2弾を早急に待望しております。こちらもよろしくお願いいたします。

亜Q

(2012.11.17)


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