シューコー先生の次の一手(5)解答編

出題者は言うまでもなく自分で回答するわけにはいきません。その代わり、自分だけのひそかな「予測」を勝手に楽しんで気晴らしをするのです。誰が当てるか、誰が最初に解答を提示するか、誰か解答とは別に「出題者はこう考えたに違いない」などと心中深く立ち入った推理(あるいは鋭い突っ込み)を披露されるか――などがその代表例です。

5問目となる今回、愚生は正解者は予測できなかったけれど、「トップバッターはかささぎさん」と思い込んでいました。「自分は"こうもり"ではなく、れっきとした"かささぎ"である。いつも様子見ばかりしているわけではない」と高らかに宣言されてズバリ正解されるに違いないと推定したからです。

ところが、かささぎさんはつい最近愛媛県・松山に出張されました。松山と言えば、正岡子規をはじめあまたの俳人が輩出した「俳句の町」。全国でも唯一の「俳句投函ポスト」を市中に置いて隠れた名句を発掘していると聞きます。日ごろご家族にも隠して詩才を磨き上げているかささぎさんは当然、自らの会心の作品をポストに投函されたはずですが、投函直後に「あかん、あれは川柳やった!」と気が付かれた。その日以来、かささぎさんは早撃ちマックの異名を捨て(他人から見ればその軽さが微笑ましいのですが)、過剰なまでに「何事も慎重に」をモットーとされるようになったらしいのです(いつまで続くかわかりませんが)。

それやこれやで、今回の解答者はお二方にとどまりました。設問自体も解答しにくかったかもしれません。難し過ぎたとかやさし過ぎたというより、解答の選択肢が限られて先に誰かが答えてしまうとわざわざ「自分も同じ解答だ」と言うのもかったるい、というところかもしれません。その意味で、自らの出題の拙劣さを改めて思い知らされている次第ですが、解答がシンプルな割にはその後の手順が面白い。前置きをこのぐらいにして、遅ればせながらシューコー先生の解説をたどりましょう。

正解図

さて、今回もたくせんさんがズバリ正解でした。「黒1のツケが最も厳しい反撃。白2のハネに黒3と切り違えて黒の強い右下の勢力を働かせることができる。中央を切断されると、白は下辺で動くしかない。白の石が上辺の模様と関連する前に下辺で決着がつけば、黒の作戦が成功したことになる」と、シューコー先生の解説は相変わらず明快です。

続く手順がまた感心させられます。白4のアテに黒はツガずに5とオサエ、白もまた抜かずに6と元をツギ、そこで黒7のツギを待って白8から黒1子を切り取って下辺の活き形を得る。その間、黒は13と構えて14と15を両にらみにして好調。白14で15なら、黒14で中に厚みをつくり、上辺白模様を牽制する要領だそうです。

準正解図

白2のハネに対して穏やかに黒3と横にノビルのも有力。以下、黒9までとなって、「黒はaとbを見合いにして戦える」とシューコー先生は補足されていました。

参考図1

梵天丸さんが選んだのは下辺星下黒からの黒1コスミ。実は愚生も同じでした。実戦対局なら何も考えずに正解図黒1と打ったかもしれませんが、ヒントに掲げられた「最強の反撃」をどう解釈するかで迷いました。「攻めたい石にはツケルべからず」と言われ、ツケれば白のサバキを助長する。そこでじっとコスムのが良さそうに思えてしまったのですが、もしかすると梵天丸さんも同じように考えられたのではないでしょうか。

コスミの弱点は、「参考図1の白2と上から制圧されて面白くない。この後黒が下辺で動くと中央に白の勢力を与え、上辺からの白模様が広がる」。参考図1の黒3以下白の薄みを切断すれば、白4、6と卍巴に切り結び8と備えて正面からの戦いになるけれど、「白はいつでもaとツケて下辺だけで生きられるため、黒3、7の二子を強く攻めることができる」ようです。

実戦図

参考図2

さて、実戦の恩田八段も黒1コスミを選び、白は2とツケて下辺の安泰を図りました。「続いて黒が3とハネたため、以下白4、6と治まり形を与えた。黒5は白からの出ギリが残るからaの1間トビが本手」と、シューコー先生。確かに、黒7カカリまでを正解図と比べれば大差です。実戦図の黒3では、「せめて参考図2の黒3とハサミツケたかった」とシューコー先生は主張します。次いで白が棒ツギ(11−十六)なら、黒は11−十八と白の根拠を奪って有利。白が棒ツギに代えて白4(11−十八)下ガリと抵抗した後の進行を参考図2に示します。「黒5ワリコミ以下黒11までほぼ必然の流れを経て、黒が下辺に厚みを形成して上辺の白模様を牽制し、後に黒a(14−十八)の大きなヨセを兼ねた攻めも残って黒が大いに有利」との結論でした。

ここで、9月15日の千寿会に久しぶりに顔を出された、東の貴公子こと高梨聖健八段から直接うかがったうれしいお言葉をご紹介させてく

ださい。何と、聖健八段はこの「シューコー先生の次の一手」を見ておられ、「すばらしい企画だ」と言ってくれたのです(手前味噌で済みません!)。「プロ棋士の着手に異論を唱える局面だから、問題自体はかなり高度で難しいかもしれないが、シューコー先生の生の言葉が伝わって、アマチュアの方はもちろん、プロ棋士にも参考になる点が多い」――。愚生は今宵、うれしさと興奮のため眠れそうもありません。

皆様ご存知の美人棋士(声もかわいいし、歌も抜群にうまいらしい)、井沢秋乃四段と新婚1年に満たない聖健先生(41歳)は最近、碁が強いばかりでなくとても色っぽくなったシェ・イーミン女流二冠(23歳)、三大棋戦リーグの常連になりつつある関西棋院のホープ、瀬戸大樹七段(28歳)と「囲碁プロ棋士歌手ユニット」を結成されました。3人ともプロ歌手並み(いや、「以上」でした)の歌唱力に加え、知的かつ人間的な魅力がいっぱいの方ばかり。3人の年齢構成とキャラクターのばらつき具合もすばらしい。こちらを時折探訪される変人諸兄が3人のどなたかに会う機会があって気軽に話しかけていただければ、必ずにっこりと応対してくださると確信しております。だって、同じ囲碁好き同士なのだから。ぜひとも応援よろしくお願いいたします。

亜Q

(2012.9.16)


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